世界のプロレス探検隊

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AEW Full Gear 2023 Review "5スター・デスマッチ!" スワーブ・ストリックランド対"ハングマン"アダム・ペイジ他

AEW Full Gear 2023 11/18/2023

 

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AEWインターナショナル王座戦
オレンジ・キャシディ(c)(w/フック)対ジョン・モクスリー(w/ウィーラー・ユータ)
 モクスリーの脳震盪による欠場がなければ、恐らくここでオレンジがリベンジを果たす流れだったのかと思うクリーンフィニッシュ。荒々しい攻防に流血とAll Outでの一戦のハイライトの様な内容。

 素晴らしい試合のハイライトなので良い試合ではあるものの、取ってつけた感は否めず、それにより盛り上がりも抑え目だった。

 平均的良試合。
評価:***1/4

 

AEW世界タッグ王座戦-ラダー・マッチ
リッキー・スタークス&ビッグ・ビル(c)対FTR(ダックス・ハーウッド&キャッシュ・ウィーラー)対ラ・ファクシオン・インゴベルナブレ(ルーシュ&ドラリスティコ)(w/ホセ・ジ・アシスタント&プレストン・ヴァンス)対キングス・オブ・ザ・ブラック・スローン(マラカイ・ブラック&ブロディ・キング)

 


 豪華かつ個性豊かなメンバーを揃えた4ウェイ梯子戦。連鎖ダイブと矢継ぎ早に繰り出されるスポット回しで、多人数マッチ感を演出。マラカイの梯子ラリアットなど独創性も打ち出しつつ、最後は梯子へのドライバーで過激度も高めていく形。

 とはいえこれまでのAEW/ROHで行われた多人数梯子戦に比べると、WWE経験者が多いからか、WWEの様に管理プロレス度が高く感じられた。テーブル破壊スポットやハイフライヤーが少なかったのも要因。

 それでも安定感は高く、ある意味その後のテキサス・デスマッチと差別化されていたのは結果的に良かったでしょう。
 好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

 

AEW TBS王座戦-トリプル・スレットマッチ
クリス・スタットランダー(c)対スカイ・ブルー対ジュリア・ハート

 


 意外と言っては当人達に失礼ではあるが、今大会である意味1番のサプライズ。

 ストーリーやキャラクター付けは思いの外上手くいっていた中で、実力体格共に勝る王者スタットランダー中心に大きなミスなく完遂。魔女ジュリア、闇堕ちスカイもキャラクターは大事にしながらも、大一番に相応しい気合いの籠った動きを見せ続け、トイレ休憩をダイヤに変えることに成功。

 使い続ける事とストーリーの重要性を実感する良い試合。互いを補完し合い、高めていった非常にポジティブな内容の3ウェイ。スカイとジュリアに翻弄されるポジションであったスタットランダーだが、格上感を示し続け、自らが回すポジションを担える事を示した。これは世界王者戦線に格上げでしょう。

 そして魔女なのにちゃんと喜んで、ベルトを逆さに掲げるジュリアの慣れてなさが逆にグッと来たのも良いシーンでした。

 中々良い試合。
評価:***1/2

 

テキサス・デスマッチ
“ハングマン”アダム・ペイジ対スワーブ・ストリックランド(w/プリンス・ナナ)

youtu.be

 

 


 今大会のMOTNはおろか、MOTY戦線に突如躍り出た狂気のデスマッチ。スワーブがキャリアで行ってきたLUやCZWでのデスマッチから比べれば、過激度は低い。ハングマンがモクスリーと行ってきたデスマッチからしても単純な過激度は下回る位。有刺鉄線スパイダーネットなどを投入した4年前のケニー対モクスリーのライツアウトマッチの方が、はるかにデスマッチ度は高かった。

 しかし、この試合は2人の類稀なる表現力、おびただしい程の大流血、デスマッチシーンでは使い古され過ぎてしまった有刺鉄線のインパクトの見直しにより、この試合は黄金のマスターピースとなっていった。

 ダンサーを従えた特別仕様の入場を行ったスワーブに対し、入場なしで奇襲を仕掛けたハングマン。いきなりバックショット・ラリアットまで放ち、復讐に駆られて滅多打ちにする。ステープラー攻撃を連続した挙げ句の果てには、流血したスワーブの血を飲んで、血を噴き上げる狂乱模様を見せる。

 タフマッチに対する強さは、これまで散々見せつけてきたハングマンだが、今回はハングマンの新境地を見せることになった。対するスワーブもやられっ放しではなく、コスチュームに”フィーンド”プレイ・ワイアットオマージュを入れてきたことを表す様に、自らの身体にステープラーを撃ち込むクレイジーモードに突入。

 

 シンダーブロックへのデスバレー・ドライバーというクレイジーな攻撃を放った後は、有刺鉄線椅子や有刺鉄線ボード、更には有刺鉄線そのものを活用する展開に。最後にガラスの破片こそ使用したものの、有刺鉄線を徹底的に使用し、使用するだけでなく、有刺鉄線でこの試合をスケールアップさせたのが素晴らしい。

 流血量に支えられたところもあるが、有刺鉄線を相手の首に巻き付けてのラリアットという独創的な攻撃に代表される様に、相手を甚振るために使う形と各々の得意技に有刺鉄線を絡める形、2パターンで使う事で、デスマッチ要素をキープしながら、メジャー団体のTVプロレスとしてキャッチーさももたらしていた。何よりも有刺鉄線というお馴染みの凶器が、新世代を創り出している2人により、スタイリッシュに復活していたのが印象的。

 個人的には『WWE Backlash 2004』のミック・フォーリー対ランディ・オートンのノー・ホールズ・バード戦を思い起こしていた試合内容なのだが、フォーリーの様な有刺鉄線攻撃やパイルドライバーを使用していたのは偶然か必然か。それ程デスマッチとTVプロレスのバランスが絶妙でした。
 両者の必殺技が飛び出す展開となった終盤、乱入してきたブライアン・ケイジとこの試合で散々介入していたプリンス・ナナをハングマンが返り討ちに。ナナを場外テーブルへのデッド・アイを決めたシーンはこの試合のハイライトの一つ。

 あのプリンス・ナナを20年後に復活させ、メジャー団体の名マネージャーとして蘇らせた手腕は、スワーブとトニー・カーン筆頭にAEWは賞賛されるべきでしょう。素晴らしいユニットだったのに、正当な評価を受けずに闇に沈むこととなったエンバシーが、やっと成仏出来たどころか生まれ変わったのは感慨深い。ジミー・レイヴも絶対に喜んでいるでしょう。

 そしてフィニッシュも、今年の『AEW Revolution 2023』でのモクスリーとのテキサス・デスマッチで絞首刑により勝利したハングマンが、逆に絞首刑により敗れるというトンチの効いたもので見事。
 契約更新を経て舞い戻ったハングマンは、復讐心により攻撃力を増した新境地を示し、団体のトップであることを再認識させ、スワーブは、団体のライジングスターとして登っていた中、このマスターピースを生み出す事で、真のトップスターの地位を確立することに成功。

 インディらしい独創的かつ狂気的でありながら、メジャープロレスのスケールで描いた今デスマッチは、業界に風穴を開けた大傑作となりました。試合開始から試合終了というレベルではなく、この抗争が始まった時から、この試合の映像が始まった瞬間から、全てに意味や意図を感じる事が出来る。簡単に再戦は組んでほしくはないが、いずれまた出会う事となる永遠のライバルの誕生。

 2023年MOTY最有力候補の5スターマッチ。
評価:*****

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AEW世界王座戦
MJF(c)(w/アダム・コール)対ジェイ・ホワイト(w/ザ・ガンズ)

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 プレショーのROH世界タッグ王座戦の後、ガンズの襲撃に遭い、脚を負傷。病院送りとなったMJF。MJFが戻って来なければ、足を骨折し手術した後の状態であるコールが代打を務めるという無茶な状況だったが、足を引き摺りながらMJFが帰還し、無事試合開始となる。
 しかし、脚を痛めたMJFは、脚攻めが得意なジェイにとっては格好の餌食。脚攻めを喰らいながら、いかに反撃していくかがこの試合のテーマ。
 狡猾に攻めるジェイ、脚のダメージを表現しながら時に狡く、時に豪快に反撃するMJF。別に悪い行動をしている訳ではなく、セコンドであるガンズやコールの介入、レフェリー失神やニアフォールの数々と定石は踏んでいたロングマッチであり、一つ一つは良いものの、全体としては上手く噛み合わなかったのが問題。

 そもそも長期欠場中のコールが代打を務められる訳ではないのに代打に名乗り出た展開、ハングマン対スワーブが余りにも凄過ぎて観客が燃え尽きてしまったことが、MJFとジェイが同じ小悪党タイプで戦略が似ていて、最終的には新日本プロレススタイルの攻防重視スタイルに帰結するジェイよりも小悪党力が強いMJFが絶対的ベビーフェイスも小悪党ヒールも同時にやってのけた点と、細かい要因が積み重なって全体の歯車を狂わせた。

 その中でも”The Demon”という秘密兵器を持つフィン・ベイラー、TNAやその他インディでのキャリアを既に持っていたAJ、DDTなどのキャリアを既に持っていて、カナダの路上王時代に代表される様にハードコアも強いケニー・オメガ。歴代BCリーダーズは、ステップアップの要因となった新日本のキャリア以外にも武器を隠し持っていたが、ジェイはヤングライオンからの純粋培養と言っても良い存在なので、業界を支配する真のスターとなるにはこれから身に付けなければものはまだある。それが露呈し、それを既に身に付けているMJFが対角線にいたことで、存在が霞んでしまったのが大きな要因でしょう。

 AEWのPPVであることを考えると期待外れ。悪い試合ではないものの、4時間プレショーを入れると5時間の長丁場で疲弊した中では、MJFの立ち振る舞いしか印象に残らなかったのは、今後に向けて再考の余地はある。

 平均的良試合。
評価:***1/4

全体評価:8