世界のプロレス探検隊

WWEAEW新日本インディ他、国内外問わずプロレスのマッチレビューを行っています。

AEW Revolution 2023 Review MJF対ブライアン・ダニエルソン/ジ・エリート対ハウス・オブ・ブラック他

AEW Revolution 2023 3/5/2023


www.fite.tv


J.A.Sはリングサイド立ち入り禁止
クリス・ジェリコ対リッキー・スタークス
 新旧千両役者対決。オールドスクールと形容しても問題はないわかりやすいアメリカンプロレス。オープニングらしく適切に試合を進め、会場を最高に温める。ジェリコが格を落とすわけでもなく、リッキーが己の力でジェリコを倒すだけの説得力を手にした事を再度証明した一戦。最高の滑り出し。

 好勝負。
評価:****


ファイナル・ベリアルマッチ
クリスチャン・ケイジ対”ジャングル・ボーイ”ジャック・ペリー
 ワンマン・コンチェアトを決めさせたいが為の試合形式。しかし、クリスチャンの老獪な試合運びとJBの生きの良さ、そして凶器使用で良い方向に試合を作り上げる事ができた。クリスチャンの負傷が癒えるのを待つ為に旬を逃した感はあり、何ならこの試合もDynamiteのメインで盛大にやらせてあげたかった。

 内容的にもそう思うものの、遺恨精算戦に相応しいエンタメ性を帯びた激しい内容となっている。好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4


AEW世界トリオス王座戦
ジ・エリート(c)(ケニー・オメガ、マット&ニック・ジャクソン)(w/マイケル中澤&ブランドン・カトラー)対ハウス・オブ・ブラック(マラカイ・ブラック、ブロディ・キング&バディ・マシューズ)(w/ジュリア・ハート)

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 新鮮なカード、新鮮な攻防。元々実力は申し分ない組み合わせに新鮮さが加わり、大化けした一戦。エリートらしい華やかでフルスロットルの試合展開に、HOBの神秘的なキャラクターやそれぞれの特性を組み込み、要所はケニー対マラカイのリーダー対決の勢いで持っていく。

 AEW移籍後1番マラカイ・ブラックが活躍した試合ではと思うほど、ケニーとのマッチアップのスペクタクル度は非常に高かった。普通ならこの試合がショーをスティールして終わりなのだが、そうではないところが今大会とAEWが異常である事を表している。

 内容だけでなく、セコンドのジュリア・ハートのコスチュームが非常に印象的だったのも付け加えたい。Vトリガーを喰らったシーンのセルは見事でした。HoBが試合内容を伴って、あるべき所に辿り着いた一戦でした。

 名勝負。
評価:****1/2



AEW女子世界王座戦-トリプル・スレットマッチ
ジェイミー・ヘイター(c)(w/Dr.ブリット・ベイカーD.M.D)対サラヤ(w/トニー・ストーム)対ルビー・ソーホー
 試合後のルビーのサラヤ軍入りが目玉ではあるものの、試合はWWEスタイルの3ウェイ。この中で一番のスターであるサラヤが試合を回しつつ、首の怪我で5年休んでいたとは思えない程受けに受けるのが印象的。ルビー、ジェイミーも有機的に試合に絡み、3ウェイムーブやカットプレーで盛り上げる。

 場外戦やカットプレーは4試合目にして、前の試合と被る点、何よりも前3試合が超ハイクオリティと流石に演者が可哀想になるものの、3ウェイの難しさを感じさせず、ストーリーも発展させる事が出来た試合。クオリティ以上に見応えはある。

 まあまあ良い試合。
評価:***1/2



テキサス・デスマッチ
ジョン・モクスリー対”ハングマン”アダム・ペイジ

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 ハングマンはテーマ曲とコスチュームを変更し特別仕様。

 クリスチャン対JBと差別化する様に、この試合は完全デスマッチ。早々に流血し、有刺鉄線系凶器にチェーンで苛烈さを強調。ハードコア巧者の2人らしく凶器の導入、厳しい攻防もスムーズ。モクスリーがヒール調にマイナーチェンジしたのも正解。ハングマンの持ち味である応援したくなるベビーフェイス力の強さを引き立てている。

 モクスリーは、ブリー・レイが指摘した様に、毎試合流血する為、流血に驚きがない中で、ハングマンの流血具合が控え目な為、流血によるスケールアップは弱めだが、有刺鉄線系凶器とチェーン、そしてセス・ローリンズとの抗争で使用していたレンガ(WWEでは厳密にはコンクリート・ブロック)を使用する事で、更にインパクトを生み出す。

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 テキサス・デスマッチ/ラストマンスタンディングというよりは、Impact Wrestlingでいうところのモンスターズ・ボール的なデスマッチ要素の高いハードコアで、両者のスターパワーの強さ、相性の良さが如何なく発揮され、見応え満点の潰し合いとなりました。

 名勝負。
評価:****1/2


AEW世界王座戦-60分アイアンマン・マッチ
“MJF”マクスウェル・ジェイコブ・フリードマン(c)対ブライアン・ダニエルソン

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 プロレスリングに愛し愛された男たちの総決算。MJFはまだまだこれからと言いたくなるが、稀代の小悪党ヒール、類稀なる才能を持ったスーパーエリートでありながらインディからの叩き上げという今MJFが持っているもので表現出来ることの究極を示した試合である。
 ブライアンに関しては、ROH&インディ期〜WWE〜AEWとベスト・テクニカルレスラーからレッスルマニアのメインを張るスーパースターと道のりを表すかの様。
 序盤は、更に肉体をバキバキに仕上げたMJFを、赤子の手を捻る様に絞り上げていくブライアンが圧倒。テクニック勝負を諦め、煽り、逃げとヒールプレイ中心の得意の形に引き込もうとするMJFと時間を使いつつもクオリティは高いまま、変にスローにするわけでもなく、前半20分だけでも1作品として完結出来るストーリーテリング。一流同士のアイアンマン・マッチ、他とは一線を画している。

 これまでの通常放送で散々痛めつけた腕と同時に首攻めも行うMJFだが、アサイ・ムーンサルトのミスで脚を痛めるという前振りも行い、25分が経過。それまでで濃密な大熱戦と化していたが、それまでの流れを少し横に置いて、丸め込み合戦を経て、ブライアンがまずは先取したと思えば、確信犯でロー・ブローを決めたMJFがポイントと引き換えに連取し瞬く間に2-2。一段落したタイミングでポイントを動かし、次のフェーズへ移行。あえて唐突な形で試合のリズムを転調。

 その後は、ハイペースからビッグスポットを交え、消耗感を強く打ち出す形。NXT1回目のジェリコ対ブライアンの際のトペをバリケードに打ち付けるカウンターや、ブライアンの師であるショーン・マイケルズオマージュのスーパー・キックに場外エルボーテーブル葬、HBKといえば引退に追いやったのはアンダーテイカーとツームストーンを放ちとプロレスが大好きで仕方がない人間が考えそうな猛攻でブライアンを圧倒。

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 ここからは一気にドラマ性を帯びてくる展開。ブライアンの見事なグッタリしたダメージ表現で絶体絶命かと思いきや、鉄柱攻撃をお返しし、今度はMJFが大流血。意識朦朧の中ランニング・ニーから抗争の発端となったウィリアム・リーガルの必殺技リーガル・ストレッチで3-3となり、ラスト10分。

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 死力の限りを尽くした後は、伏線回収でMJFの腕殺し対ブライアンの脚殺し。MJFが脇固め(ソルト・オブ・ジ・アース)に限らず、ザック・セイバーJr.のクラーキー・キャットの様な腕固め等腕殺しのバリエーションを見せれば、ブライアンはかつてROHにて激闘を繰り広げたランス・ストーム(MJFが敬愛するクリス・ジェリコの元相方)の必殺カナディアン・メイプルリーフ(ハーフ・ボストンクラブ)にこちらもかつて好勝負を繰り広げたジミー・レイヴの必殺ヒールフックを放つ。ランスやレイヴのことを思ってではないとは思うが、結果的にブライアンが築き上げてきたレガシーを振り返ることが出来る攻防であった。

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 結果フルタイム・ドローとなり、その後サドンデスへ。後もう60分出来そうなレスリングモンスターブライアンの姿を見て、一気にヘタレヒールの色を見せるMJF。前回のモクスリー戦の決まり手をブラフに、誰も価値が落ちない狡くも美しいフィニッシュで65分もの大激戦を締め括った。

 ブライアン・ダニエルソンがROH時代を彷彿とさせるレスリングマスターらしさを如何なく発揮。対するMJFはブライアンの提示に対し、完璧に応えた上で自らの持ち味も提示。最初から最後まで意味のない攻防は全くない一方、試合内容が巧妙に考え尽くされたものであることを見せない工夫、特に煽り役を担ったMJFのアドリブを含めた演技力の高さは特筆。2人に関連する印象的なシーンのオマージュも多数含まれており、長くアメリカンプロレスを観てきた人にすれば、堪らないシーンも続出。

 2人が愛してきたプロレスに対して改めて満点回答を返したまさにマスターピース。オスプレイ対ケニーの試合で、これを打ち破る試合は今年現れないと確信したが、まさか早2ヶ月で打ち破る試合が現れるとは感嘆の一言。モクスリー対ハングマンと被る為、MJFの大流血の威力が想像上に出なかったのは惜しいポイントではあるが、それを打ち消すだけの破壊力を誇っていた。

 若い割に試合数が少ないと揶揄されても、100試合分の威力を持つこの様な試合を見せられたら非の打ち所がない。文句無しに5スターマッチであり、年間ベスト最有力。
評価:*****


全体評価:10+