世界のプロレス探検隊

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Impact Wrestling Review 2021 "大激戦! 60分アイアンマン戦"ジョシュ・アレキサンダー対TJP/ケニー・オメガ対ムース

Impact Wrestling Before The Impact #16 6/3/2021
Impact Wrestling #878 6/3/2021
Impact Wrestling Xディビジョン王座戦-60分アイアンマンマッチ
ジョシュ・アレキサンダー(c)(w/ピーティ・ウィリアムス)対TJP(w/ファラ・バー)

 ベーシックなヘッドロックや腕の取り合いで時間を消化していく中でも、TJPの変幻自在の関節技が火を噴く展開。その中でも軽さは一切なく、ジョシュに対抗出来るだけの厳しい絞り方は、試合を引き締める。ジョシュもTJPに対抗出来るだけのレスリングテクニックは備えているので、強さ厳しさ上手さどれも揃った無視出来ない冒頭10分間となっている。
 次の10分間は更にハイレベル。じっくり時間稼ぎのチンロックなんて安易な道は選ばず、TJPの流れる様な連続攻撃に惚れ惚れしつつも、ジョシュもやられっ放しではなく、抵抗を入れて隙あらばすぐ自分のターンにし返してしまう。本当は終盤に入れたい攻防をこの10〜20分に入れてしまう余裕には感銘を受ける。パーツ破壊を利用して支配はするけれど、どの攻防でも抵抗する事を徹底して忘れないので、試合が緩まない。
CM中は一旦抑え、CM明けにテンポアップしてまずは固め技でジョシュが一本先取。20分経過。
 20〜40分は疲労度も反映させて少しペースダウン。関節技で絞り上げるシーンが増えていく。とはいえボディスラムを切り返してのクラバート、スリーパー、ロープを使った変型ロメロ・スペシャルと技術の高さを示し続けるのは忘れず、エプロンへのスラムといった厳しい投げや脚攻めなど終盤への種蒔きを行なっていく。落ち着くだろうなと思わせておいて、ニアフォール連発や得意の関節技で追い込み、絶妙に緩急を付ける。
体力の消耗度、ダメージの蓄積が高まり、ペースが落ちていく中で終盤に移行。

 45分経過後は、死闘モードに拍車が掛かり、ダウンの時間も増え、それと引き換えに大技も増える。ここでインディならハードコアの攻防を入れたくなるけれども、そこはTVプロレス。ピーティ等のセコンド陣やセイビン、ミゲルらが登場。エプロンへのツームストーンを皮切りにバックステージのレスラー達がリングサイドに集まる演出。無観客なのを少しでも埋めようということだろう。特段クオリティが上がるものではないものの、インディでも長く戦って来た2人でもあるので、理解は出来る演出である。

 50分経過したタイミングで、事前番組のBTIからインパクト レスリングの本放送に移行し、ラストスパートへ。負けているTJPが必殺技を連発するも、耐えるジョシュの構図。ストレートにフルスイングを決めていくTJPと、グッタリとした受けの表現も冴えるジョシュ。ド派手な攻防ではないものの、これまでの試合内容を無駄にせず活かし、ポイントを押さえた攻防となっている。アンクル・ロックを決められ万事休すかと思いきや、残り2秒、決死の丸め込みでイーブンに戻し、サドンデス方式の延長戦へ。

 攻め込むTJPの隙を突いたジョシュが、得意技を連発し、最後は、必殺ディバイン・インベンション(ダブルアーム式パイル・ドライバー、TNA版チームカナダのジョニー・ディバインの必殺技でもあった。)一閃。大熱戦に終止符を打ちました。

 長丁場だったが、この現代のプロレスリング・マエストロ同士の対決とあって、激しさと気品を兼ね揃えた内容。いくらでも楽を出来るのに、楽をしない試合構築。何でも出来ていつでもどこでも最高のパフォーマンスを見せてくれるジョシュ・アレキサンダーはこの試合でも最高で、ますます令和のカート・アングル道を邁進し続けている。アンクル・ロックに加えムーンサルトまで使う所に意図を感じる。

 そしてTJP。奇術師と称される程、業界指折りのテクニシャンだが、そのテクニックは出しながらも、試合展開に沿った必要なテクニックのみを繰り出していて、WWEリリース後からステージが上がった要因である直球勝負でも良さを発揮出来る様になったことが、この試合では随所に表れていた。シンプルな一進一退や、必殺技連発のシーンで無駄に複雑怪奇な関節技を選ばずに、投げ技飛び技を選び、無駄なく熱を発していて、繋ぎのシーンでも鋭い張り手や打撃でチェンジオブペースする等飄々としながらも、熱さ激しさという新たな面をスムーズに出せるのが今のTJP。

 ハードコアやフェイスヒールの構図等TVプロレスに入れたくなる要素に頼らず、可能な限り己の肉体と技術で勝負した上品かつ硬派なレスリングマッチ。玄人好みな内容ではあるものの、全編通して捨てる所が見当たらない極上の一戦となっています。2021年を代表する試合の一つです。名勝負。
評価:****1/2

全体評価:7.5+

 

Impact Wrestling Against All Odds 2021 6/12/2021
Impact Wrestling世界王座戦
ケニー・オメガ(c)対ムース

 AEWの本拠地デイリーズ・プレイスでの王座戦。スコット・ダモールやレフェリーのブライアン・ヘブナーも登場し、インパクト仕様に。
 ケニーはコンディションがかなり悪いと報道され、ムースも肩にテーピングと万全ではない様に見えるが、そもそも関わりがない組み合わせで、ヒール対ヒール、しかもムースは成長したとはいえ、身体能力が凄い素材型でサポートは必要なタイプと、ケニーが余りやって来なかったシチュエーションであり、対戦相手。難しさが伝わるものの、攻防を積み重ねていき、何とか土台作りを行う。

 ヒール対ヒールで悪さを競う訳ではなく、立ち位置をニュートラルにする形。大技やアピール、場外戦を使い、そつなくこなしていく。ここまで上手くいってないケニーを見るのも中々ない。しかし、ムースが下手というわけではなく、マッチメイクの相性、ストーリーラインとの兼ね合い、コンディション問題とネガティブな要素が積み重なっただけで、ケニーがヒールで、ムースがフェイスならもっと良くなったのは言うまでもない。

 ハンディを背負いながらも、楽しめる攻防も迫力ある大技合戦もありと、決して悪い試合ではない。ジェネレーション・ミーつまりはヤング・バックスの介入、試合後のサミの登場、ケニー対サミの伏線が当然メインになるのは、無理はないが、やれる範囲でやれる事はやった一戦でした。中々良い試合。
評価:***1/2