WWE NXT UK #187 3/10/2022
A-キッド対チャーリー・デンプシー
シャーデンフロイデの旗持ち役であったラッキー・キッドがWWE加入に伴いキャラクターチェンジを行い、転生した姿であるテオマン率いるヒールユニット「Die Familie」に所属するウィリアム・リーガルの御子息ことチャーリー・デンプシー。
父親譲りの伝統のランカシャースタイルで、激しくもテクニカルなスタイルをキャリア4年コロナ期間抜くと実働2年程で既に身に付けており、気怠いプロモのやり方は若きジョン・モクスリー、試合終盤にキャトル・ミューティレーションを入れる辺りは、父親ウィリアムと師弟関係にあり、遂に同じユニットとなったブライアンを意識しているのも見逃せない。
この存在がもしAEW誕生後にデビューしていれば、WWEを選ばなかったかもしれない。ダニエル・ガルシアやウィーラー・ユータの様な選手は選ばれなかったかもしれない。巡り合わせの面白さを感じてしまう存在。
この試合は、ランカシャー・スタイルに合わせられるだけのテクニシャンということで選ばれたスペインがヨーロッパに誇る奇術師Aキッドが、デンプシーの良さを引き出しながら、要所で持ち前のテクニカルな面を披露し、相乗効果を生み出していた。タイプは違うけども技術があるからこそ魅力を消し合わないテクニシャン対決ならではの矜持を感じる。
最後はパート2を匂わせる決着だったが、また観たいと思わせる事には早くから成功していた充実の遭遇でした。好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4
WWE NXT UK #198 5/26/2022
ヘリテージ・カップ・ルールズ
A-キッド対チャーリー・デンプシー
そして迎えたリマッチは、1ラウンド3分で2本先取した選手が勝利するヘリテイジ・カップルール。Aキッドの得意な試合形式ではあるものの、それを物ともしない脅威の若手デンプシー。2人の若手の魅力が大爆発した激闘。
まず1ラウンド目は、基本的な腕の取り合いからデンプシーが腕攻めのバリエーションを見せた一方、Aキッドが鋭い蹴りを見舞う。テクニックを示す一方スピーディーに攻防を繋ぎ、1ラウンドで序章をまとめ切ったのは見事。これで2人がどの様な選手でどの様なライバル関係を築いているかが一目瞭然。
2ラウンド目、腕の取り合いを軸に、Aキッドが絡みつく様な攻撃を繰り出せば、デンプシーは、ナックルロック式スープレックスや見事なブリッジを使った攻撃で技術同様フィジカルの強さも示し、手四つの攻防に回帰し終了。ここまではスリリングである一方、基本の技術を織り交ぜる事で、まだ序盤である事を示唆しているのも心憎い。独創的で複雑怪奇なものばかりではなく、根底にあるのは昔から受け継がれているテクニックですと戦いにメッセージがある。
3ラウンド目からは、脚を極めながらの張り手、膝蹴りとデンプシーによる芸術的なジャーマンSHと打撃や投を織り交ぜていく。試合の転調を図るならここしかないというタイミングで切り替えてきたクレバーな選択。デンプシーが必殺の変形ボーアンドアローを決めかけたところで、あえてAキッドがタップすることで、ダメージを抑えるという演出もこの試合形式だからこそ出来る演出で、高ポイント。
後半もフルスロットル。4ラウンド目は、試合を終わらせにいくデンプシーに対し、Aキッドが決死の反撃。再三見せていたスリーパーを極めながら、ダメージが深いデンプシーに対し稲妻の様なサイドキックを放ち、これでタイに。前半は、デンプシーが少し優位のまま終わっていたが、後半は、Aキッドの脅威の巻き返しに、ヒールらしくギリギリ粘るデンプシーという構図で、Aキッドのヒーロー性と、デンプシーのヒールとして弱った振る舞いが活かされて、勢いが途切れない構成になっているのが憎い。
5ラウンド目も、攻勢に出るAキッド。サブミッションの数々でいつ終わってもおかしくない状況を作りつつも、必殺のムーンサルトDDTを炸裂するも、時間切れに救われるという演出も見事。
そして最終ラウンドは、Aキッドがとうとう追い詰めるも、デンプシーがタオルに隠していたブラスナックルを囮に使い、父親が左なら息子は右手でナックルを放つ。父親の代名詞である「神の拳」をブラフにして、最後は父親譲りのリーガル・プレックスでフィニッシュ。ヒールのデンプシーが勝つ為のダーティーな結末にするとして、デンプシーの立場で出来る最高のフィニッシュシーン。この上ない結末。
1ラウンドごとに展開を変え続けた前半3ラウンドと対し、Aキッドの怒涛の反撃からデンプシーののらりくらりとしたヒールの振る舞いをシームレスで描き切った後半3ラウンド。一つ一つの攻防に意図や意義があり、基本や歴史を踏まえつつ、独自のアクセントや見せ方で基本技でさえも極上のインパクトを生み出す動きと、この試合形式を最大限活かした試合構築の妙。深掘りすればするほど沼にハマっていく非の打ち所がない激闘。
Aキッドもザックのフォロワーという域をあっという間に抜け出し、NXT UKのエースクラスとして活躍していたが、今回は将来英国とシーンを背負うかもしれないサラブレッドの才能を最高に発揮する好敵手として歴史的な試合を作り上げた。年間ベスト級の大激戦。デンプシーは、ウィリアム・リーガルの息子という境遇を狡猾に最大限活かしたクレバーさとその言わばコネと才能に逃げない実力の高さは賞賛の一言。
文句無しに名勝負。2022とNXT UKを代表する激闘です。
評価:****1/2
全体評価:8
WWE NXT UK #191 4/7/2022
WWE NXT UK王座戦
イリア・ドラグノフ(c)対ロドリック・ストロング
老獪なヒールとなり再出発したロドリックと、狂乱の絶対王者イリア。ロドリックはイリアの腕と肩を攻め、イリアはロドリックの脚を削る。優れたダメージ表現とそれに見合った技の数々。そこにハードな打撃やロドリックの十八番であるエグいバックブリーカーを織り交ぜる形で、玄人好みの消耗戦の中にも、わかりやすく試合に入り込める要素を入れていたのはさすがトップレベル。
ロドリックはイリアを立てる様な一歩引いたスタンスではあったが、試合を進めるにつれて、イリアが巻き起こす熱に感化されたかのように、往年の実力を発揮。
イリアの爆発力は変わらず凄まじいけれども、それだけではないロドリックの強さ上手さが光る好勝負となっていた。好勝負。
評価:****
WWE NXT UK #196 5/12/2022
WWE NXT UK王座戦-ルーザー・リーヴス・NXT UK
イリア・ドラグノフ(c)対ジョーダン・デヴリン
負けた方がNXT UK追放となる再戦。襲い掛かる様なロックアップから始まり、エル・ジェネリコオマージュBrainbustaaahhhhh! を見舞い、一気にイリアが瀕死モードとなる意表をついた展開。
El Generico busting the brain of Kevin Owens. pic.twitter.com/5CAhjSxmCG
— The Wizard Jeri Potter (@JaimsVanDerBeek) 2022年3月30日
その後のデヴリンによるコントロールは、イリアのエキセントリックな表現と死闘モードを煽る見事なものではあったが、体格や演出面で不利な面があり、インディとしては十分だが、WWEとして見るならばスケール感が足りないところはある。
どうしても渋く小さく見えてしまうのは仕方がないが、それをハードヒットと熱量で塗り替えていくのもこの両者。心身共に削り合うかの様な2人の攻防に目を奪われ、必殺級も早々に投入し、満を辞してのカナディアン・デストロイヤー炸裂も、イリアが痛めた首を攻める理詰めポイントにもなっている。更には幻の王座交代に試合再開、そこからもう一伸び押し上げる事も忘れない。
後半の追い込みは、過去の王座戦でもトップクラスの爆発力を誇っていた。挑戦者として立ちはだかる相手達が皆イリアの良さを最大限引き出す試合運びを見せるのは素晴らしく、今回のデヴリンも例に漏れず。敗者追放戦に相応しい死闘でした。
文句無しに好勝負。
評価:****1/4