世界のプロレス探検隊

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AEW All Out 2021 Review "復帰戦"CMパンク対ダービー・アリン/ブライアン・ダニエルソン&アダム・コール登場

AEW All Out 2021 9/5/2021

 

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AEW TNT王座戦
ミロ(c)対エディ・キングストン

 個人的には一番今大会で好きな試合。
 何もない所からマイク一本と己のキャラクターと風格で極上のストーリーを作り出す。バズったランペイジでのプロモ合戦にも代表される様に、これぞエディ・キングストンというべき活躍を見せ、この試合に突入。
 試合に関しても、互いに格闘技色があるスタイルの為、親和性があり、予想以上に手が合う。ミロが猛攻を仕掛けると、キングストンはダウンベースでの試合運びに切り替え、大観衆の支持を仰ぐ。インディ時代からのキングストンの持ち味だが、団体屈指の大ベビーフェイスとなった今のキングストンならば効果は抜群。
 憎々しい程強いヒールのミロが相手なら、更に相乗効果が生まれる。その後は、キングストンのバックドロップ、エクスプロイダー、マシンガン逆水平、ジャンピングハイキック、エルボー・スイシーダにフィッシャーマンズ・スープレックスホールドとワンマン全日本プロレスを地で行く猛攻を叩き込む。強く激しい攻防の応酬でありながら、強くも弱くも出来るキングストンとミロの上手さがとことん光る展開。

 ミロも、表情の豊かさを持ちながら、硬軟も使い分けられるドミネイターとして、WWE時代の1番良い時のパフォーマンスに近いハイレベルの働きをしていて、ジェリコが獲得を嘱望しただけの価値を示す。コーナーパットを巡る展開も、要はキングストンの格と価値を保ちつつ、ミロを勝たせる理由作りなのだが、本当に悔しいと思ってしまうほど、キングストンに感情移入してしまう。その攻防自体も、レフェリープライスも含む演者3人が上手く遂行していた印象。

 一回で終わらせるにはもったいないレベルで、イメージ通りに事が運び、イメージ以上のスイングぶりを見せた大激戦。夢破れ新天地を求めたかつてのスーパーエリートと、死と隣り合わせの環境にありながら、チャンスを掴んだストリートドッグが織りなす、2人の実力とプロレスキャリアが詰まったドラマチックな一戦でした。好勝負。
評価:****

 

AEW女子世界王座戦
Dr.ブリット・ベイカーD.M.D(c)(w/レベル&ジェイミー・ヘイター)対クリス・スタットランダー(w/オレンジ・キャシディ)


 オーソドックスな一進一退の攻防がベース。2人とも試合運びが良化しており、安定感を増している。土台を上手く作れたので、豪快な大技が単発にならない。2人のポテンシャルを考えれば、まだまだやれるとは思うが、ミロ対キングストンと鈴木みのる登場で少し疲れた観客の気を削がなかったことだけでも成功。最後は、ベイカーが彼氏の必殺パナマ・サンライズを経ての必殺フルコースでスタットランダーを撃破。

 平均的良試合。
評価:***1/4

 

AEW世界タッグ王座戦-スティール・ケージマッチ
ヤング・バックス(c)(マット&ニック・ジャクソン)(w/ブランドン・カトラー)対ルチャ・ブラザーズ(ペンタ・エル・セロ・ミエド&レイ・フェニックス)(w/アレックス・アブラハンテス)

 文句無しに今大会のMOTY。そして年間ベスト級の大激戦。終わりなきリアル兄弟タッグ屋対決は遂に金網戦へ。トルネード式に攻防を積み重ねていきながら、ミラームーブも取り入れ、フェニックスの凄技を活かした攻防を見せつつも、金網も上手く活用。

 個々の見せ場、タッグとしての見せ場、金網戦としての見せ場、バックス対ルチャ・ブロズとしての見せ場、全てを織り交ぜ、一切マイナスポイントがない最高の質、配分で繰り出す。まさに世界最高水準。それぞれの得意技、得意な連携も惜しみなく披露し、息を吐く暇もない。

 それで終わりかと思いきや、急所攻撃を皮切りに飛び出したのは、バックス最高位の凶器である画鋲付きスニーカー。トラヴィス・スコットすらインスタのストーリーに上げる程のインパクト。そしてそれは一気に流血戦へと一変させる。マスク裂き、フェニックスを庇ったペンタが大流血。フェニックスがフューチャーされがちだが、ハードコアと流血こそペンタの真骨頂。最高の表情と表現で更にボルテージを上げ、ラストスパート。

 序盤のカッター・パーティーに続き、十八番のスーパーキック・パーティーから雪崩式カナディアン・デストロイヤー、フェニックスによる金網天辺からのスーパーダイブと最高級のスポット連発でフィニッシュ。

 昨年はペイジ&ケニーとMOTY級の試合を作り上げたが、今回は年間を超えてプロレス史に残るタッグマッチを作り上げた。金網タッグマッチで言うと、AMW対XXXとAJ&ダニエルズ対LAXがトップの内容を残した試合だが、余り名勝負は生まれにくい、そもそも組まれにくいのが現状だったが、その難解なシチュエーションを最高のものに仕上げたのは賞賛するしかない。

 どれをとっても完璧。タッグの面白さ、個々のレスラーの実力やキャラクターが反映されていて、流血と金網の使い方も最終決戦に相応しい内容です。5スターマッチ。
評価:*****

 

女子カジノロワイヤルは、ルビー・ソホがジョーカーとして登場し、そのまま優勝!

 

ザ・ファイナル・ファイト
マクスウェル・ジェイコブ・フリードマン対クリス・ジェリコ
 散々戦って、多人数だが特殊形式、変則5番勝負までやり切った後の決着戦では、正直やることがないのだが、WWF時代のジェリコのトロンをもじったMJFの入場を皮切りに、ラフファイトを交えて、決着戦らしい雰囲気を出したのは上手く、本来の彼らのスタイルからは逸脱している形ばかりを取っていたが、それがかえって意表を突く形になっていたのは結果正解でした。

 FOZZYのツアーが控えていて、どうせ負けてしばらく出なくなるのでしょうと邪推するファンや私の様なマニアを、嘲笑う様な決着後再開からのクリーンフォールでジェリコが勝つという意表を突く結末。余韻を残さずすぐにパンク対アリンに移る選択も懸命。色々な意味でジェリコのクレバーさが光った一戦。中々良い試合。
評価:***1/2

 

CMパンク対ダービー・アリン(w/スティング)

 

パンクはシカゴカラーのロングタイツで登場。
 大歓声を楽しむ様に、オーソドックスな展開からスタート。攻防を積み重ねていきながらじっくりと。今のプロレスファンからは余りにもベーシック過ぎる攻防ばかりであったが、他との差別化を図り、客にも団体にも媚びる事なく、自分のプロレスをやっていくパンクの所信表明の様な試合内容。

 スタイルとしてはWWE後期+インディ期を少し合わせた様な安定感のあるオーソドックスなもの。クラシカルではあるけれども、対戦相手のアリンがスーサイドかつ変幻スタイルを持っているので、退屈にはならない。アリンの持ち味を活かしつつ、溢れるスターパワーと圧巻の横綱相撲で制圧。

 アリンの格は守りながらも、まだまだ引き出しは全て見せないよと言わんばかりの試合でした。7年ぶりの試合とは思えない程、何ら変わらない仕上がりぶりは賞賛の一言。好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

(この試合を、ブレット・ハート対1-2-3キッド戦になぞらえている動画がバズっていた。どこまでそれを意識したかはわからないが、パンクなら、アリンをジェフ・ハーディではなく1-2-3キッドに見せるというアイデアを出すかもしれない。ジェリー・リンに代表されるあの頃の1-2-3キッドを知っている裏方もいる。後日談としてそういうのを楽しむのもプロレスの醍醐味である。)

 

AEW世界王座戦
ケニー・オメガ(c)(w/ドン・キャリス)対クリスチャン・ケイジ

 抗争が激化した中での一戦だけあって、ラフ要素強めのファストペースの展開。クリスチャンが場外ダイブを早々に決めれば、ケニーは得意のテーブル貫通フットスタンプを決める。ある程度まで飛ばした後は、じっくりとした支配ターン。技数が少なく、受けで試合を作るクリスチャンに合わせた形。

 ビッグ・ショーのクールダウンタイムがあったとはいえ、パンク戦を経て、長丁場で疲れ切った会場と重々しい支配ターンが合わさると、かなり停滞している様には見えるけれども、行為自体は定石を踏んでおり、2戦目、PPVのメイン、クリスチャンがベビーフェイスという状況ならばベターな選択をしている。本当ならクリスチャンがヒールで試合を作る方が、このカードの質は跳ね上がるとは思うけれども。

 豊富な技数を持つケニーに対し、クリスチャンも得意のシークエンス以外に背後からのスピアーやテキサス・クローバーリーフといった隠し技も用意。終盤のボリュームを長くし、テーブル葬や介入シーンも入れるけれども、ランペイジでの一戦には及ばず。

 CMパンクという爆弾の後とサプライズのブライアン待ちという環境、余りにも凄い大会過ぎたことの弊害、サプライズが多すぎて、クリスチャンがメインを張る事に見慣れてしまったこと、ヒールでこそ真価を発揮する選手であるクリスチャンの、ベビーフェイスとして限界が大きな要因となる。クリスチャンはクリスチャンなので、やむを得ないのである。最後は、雪崩式片翼の天使で上手く格好を付けることには成功。

 中々良い試合。
評価:***1/2

 

 

この試合におけるモヤモヤもアダム・コールとブライアン・ダニエルソン登場のダブル・サプライズで全て帳消しどころか完璧にキャッシュバック。史上最高のPPVと言いたくなる気持ちも良くわかる最高の大会でした。

全体評価:10+

観た瞬間の衝撃は物凄かったが、それに加えて、次々と出てくる後日談。試合のクオリティ、ストーリー、サプライズ、サプライズに至るストーリーは歴史背景、業界に落としたインパクト。ALL INや昨年のDoNも歴史的な大会ではあるが、今大会は、Show of the Decadeといっても過言ではない。パンクが歴史を作ったMITB2011から10年後に、WWEではない新興団体が同じ規模で、歴史を作り上げた。文句の付けようがない。