世界のプロレス探検隊

WWEAEW新日本インディ他、国内外問わずプロレスのマッチレビューを行っています。

AEW Revolution 2022 Review CMパンク対MJF、ウィリアム・リーガル登場他 ~それぞれのRing of Honor~

AEW Revolution 2022 3/6/2022

 

www.fite.tv


エディ・キングストン対クリス・ジェリコ

youtu.be

youtu.be


 「Judas」を切り裂いて入場してきたエディ・キングストンに送られる大歓声。これだけで長きに渡るプッシュが成功していると確信出来る。
 試合は、全日本(大好き)対WARというべきか、キングストン自体は大阪プロレスといっても良いかもしれないが、日本に精通する両者の対決。アメリカン・ジャパニーズ・スタイルといいたくなる煽りとラフを交えたハードヒッティングと鋭角なスープレックス連発と日本を強く意識した攻防が続く。

 絞ってコンディションを上げてきたジェリコは、メインだと厳しいけれども、オープニングやミッドカードに置けるならまだまだ心強い。キングストンに関しても、インディ時代にネックとなっていたムラっ気はどこへやら、蛇足となり得る部分は抑え、良い部分のみを表現する事がコントロール出来ている。WWECWやRAWで持ち味を発揮出来ず散々だったCMパンクが、当時のジェフ・ハーディとの抗争辺りから、覚醒し安定感抜群になった時を彷彿とさせる。

 インディでも中々ない様な脳天から落ちるスープレックスを耐えたキングストンが、ジェリコを倒し大金星を挙げる最高の始まり。中々勝てなかったPPVでの勝利は、感涙もの。フィニッシュも川田利明リスペクトのストレッチプラム。

 試合のハードな面が目立つ中で、日本レスラー技ばかりでも気にならないのが、皆がエディ・キングストンというレスラー、そのキャラクターの表現力や彼が築いてきた歴史に魅了されているから。スター性を磨き続けるキングストンだからこそ、ジェリコが直々にプッシュの手助けをしようとしている。認めていないとクリス・ジェリコは出てこない。

 エディ・キングストンらしさを如何なく発揮した試合だったが、近年ではベストワークに近いジェリコの熟練の技術も光った最高のオープニング。非常に盛り上がりました。好勝負。
評価:****

 

AEW世界タッグ王座戦-トリプル・スレットマッチ
ジュラシック・エクスプレス(c)(ジャングル・ボーイ&ルチャサうルス)対ヤング・バックス(マット&ニック・ジャクソン)(w/ブランドン・カトラー)対reDRagon(カイル・オライリー&ボビー・フィッシュ)
 互いにアダム・コールの仲間だが、古くからのライバルであるバックスとレッドドラゴン。その微妙な関係性を描きつつ、要所では人気者JEが譲らず軽快に舞う展開。

 物凄い激闘の後で、2試合目で少しペースとしては落ち着いてはいるものの、華麗な連携あり、3ウェイの機微も描きと押さえる必要のあるポイントはきっちり押さえている。中盤以降は3チーム更に入り乱れ、レセダで観た様な驚愕スポットを連発。独創性、立体性全て満点。飛び道具ルチャサウルスの活かし方も絶妙。

 バックスとレッドドラゴンという歴戦の猛者2チームが並んでも、JEが主役の座を離さなかったのも良く、ジャングル・ボーイは奥の手SSPなど凄技を次々と放ち、一番のスターである事を誇示。

 試合のボルテージはうなぎ登りで、どんどん登っていく様はまるでジェットコースター。メインかと錯覚してしまう程の好勝負でした。文句無しに好勝負。
評価:****1/4

 

フェイス・オブ・ザ・レヴォリューション・ラダーマッチ
リッキー・スタークス対パワーハウス・ホッブス対オレンジ・キャシディ対ウォードロウ対クリスチャン・ケイジ対キース・リー
 バランサーとしてラダー戦の名手クリスチャンの存在意義が大きい。キースを始め飛び道具系が多い中、軌道修正が出来るベテランは心強い。タイプが近いスタークスは、学ぶ所が多かったと思う。

 キャシディがラダーを逆上がりしたシーンの後に、クリスチャンがホッブスに倒される事で間を空けさせなかった。その為次のシーンへとスムーズに移ることが出来る。その上手さこそクリスチャン。

 終盤以降は、ラダーを登るシーンが増え、ビッグマンばかりの反動で、その統率も効かなくなっていったが、ステージからのテーブル破壊で何とかまとめてフィニッシュ。キースの飛び道具っぷりは余り活用する事が出来なかったのは惜しかったが、ファンマッチとしてはまずまず。これでウォードロウをMJFに向かわせる事が出来る。

 平均より上。
評価:***

 

契約が噂されていた元WWE NXTノース・アメリカン王者、シェイン・”スワーブ”・ストリックランドが登場し、AEWとの契約を発表。

 

 

AEW TBS王座戦
ジェイド・カーギル(c)(w/マーク・スターリング)対タイ・コンティ(w/アナ・ジェイ)

 モータル・コンパットのジェイドのコスプレで登場のジェイド・カーギルには、入場にすっかり見惚れてしまう程。

 無敗を誇るカーギルは、フェイスなのにヒールの様なメイクのコンティを迎え討つ。コンティのセコンドであるアナ・ジェイも椅子攻撃で介入する苦しい展開だが、得意技を増やしたカーギルがしっかりと返り討ち。フロッグ・スプラッシュもかなり綺麗で、メインイベンター化計画は順調に進行中。

 コンティの試合運びはダブルターンの予兆さえ漂うものだったが、今後の要素を詰め込み過ぎて短時間では溢れてしまった格好。

 ただカーギルには明るい未来しか見えない。そもそもCMパンクというノスタルジック爆弾を抜けば、一番入場でお金が取れるのはカーギル。フェイスターンをするのであれば、最終的に狙うは、ベイカーとのビッグファイトでしょう。
評価:**3/4

 

ドッグ・カラーマッチ
CMパンク対マクスウェル・ジェイコブ・フリードマン

youtu.be

youtu.be

 

 評価は文句無しに好勝負としているけども、前提としてこの対決に至るプロモと、この試合の入場によって、心の中では星10個である。メルツァーの星6つなど甘い甘い。

 あの元祖”Summer of Punk”の始まりを告げた2005年6月18日ROH「Death Before Dishonor 3」でのCMパンク対オースチン・エリーズ戦後の衝撃のプロモ、2003年6月28日ROH「Wrestlerave '03」でのレイヴェンに放ったCMパンクのプロモ、そして2003年7月19日ROH「Death Before Dishonor」でのCMパンク対レイヴェン(ドッグ・カラー戦)を引用するだけでなく、ROH時代のコスチュームと入場曲 AFI「Miseria Cantare (The Beginning)」での登場。当時からの米インディファンの心を打ち抜く演出には、称賛しかない。間違いなく2022年ベスト。

youtu.be

youtu.be

youtu.be

youtu.be

 

 試合自体も、プロモ同様レイヴェン戦の要素を織り交ぜた内容となっていて、冒頭のMJFの逃げるシーン、中盤のMJFがマイクを持ち、『おい、オールドタイマー~』と語りかけたシーンは、レイヴェン戦のオマージュ。これで終盤にレイヴェン・エフェクト(DDT)があれば百億点だったが、それは流石になかった。

 ただ、スター街道をひた走るMJFと、順風満帆のセカンドキャリアを送るパンクでは、いくら大流血をしたとはいえ、陰鬱な死闘は、演者が煌びやか過ぎて合わない。パンク対レイヴェンは、ニルヴァーナに代表されるグランジ要素をフルに活用したレイヴェンのキャラクターに、ストレートエッジ主義の代表としてレイヴェンにNOを突きつける若きパンクのストーリーで、レイヴェンのダークなキャラクターがあっての陰鬱さである。

 この試合は、成熟し切ったパンクと、若き天才MJF、レイヴェンよりも何倍もレスラーとして良い試合を作る能力に長けている2人なので、安定化自体は簡単だが、陰鬱にしづらい所を、パンクがROHのコスチューム、入場テーマで当時の雰囲気を取り込んだのは出色であった。

 デスマッチファイターでもなく、ハードコアマッチがモクスリー級に強い訳でもない2人ではあるが、やり過ぎてはいけないラインギリギリを見定めながら、エプロンへのツームストーンや画鋲使用で過激度を増し、上手く大流血戦をやり抜いた。まったりした箇所もあるにあったが、流血戦に合うテンポにしているので、マイナスにはならない。

 パンクに対して語る事の多い試合、抗争だったが、最後にMJFについて。コーディ、モクスリー、ジェリコ、パンクという歴戦の猛者達によるスパルタ育成期間を終え、今度はようやく自分が、ウォードロウという色んな意味で難敵を引っ張る番。ピナクル問題に頭を抱えながら、ショーン・マイケルズにおけるディーゼルにウォードロウを磨き上げる事が出来るか、MJFの試練の日々はまだまだ続く。文句無しに好勝負。
評価:****1/4

 

AEW女子世界王座戦
Dr.ブリット・ベイカーD.M.D(c)(w/レベル&ジェイミー・ヘイター)対サンダー・ロサ
 地球上に存在するレスラー誰が試合をしても難しいパンク対MJFの後に、試合をしなければいけない気の毒な2人。臨時ボーナスを積まれないと拒否したくなるレベルの苦行に、AEW女子部門におけるトップの切り札を使わなければいけないのは非常に悲しい。

 何とか小気味良い攻防、堅実なレスリング、一進一退で積み上がるものの、会場のエネルギーはまだ戻りきらず。ただそれを察した会場もチャントで何とか盛り上げる。危険な雪崩式エア・レイド・クラッシュでインパクトを生み出し、度重なるレベルの介入からのチープショットといった演出、奈落式スピアーでテンポは崩れながらも、上手く体裁は整え、フィニッシュ。

 試合自体は悪くないので、環境が違えば、内容は同じでももっと違う結果になったはずなので、是非ともリマッチして欲しい。

 余談だが、ベイカーが親友であるインパクト・レスリング所属、現ROH女子&AEW 女子二冠王者であるディオナ・パラッツォが使うスープレックスを今回使用し、エクスカリバーがディオナの名前に言及したので、AEWもしくは ROHでの遭遇の可能性は増したでしょう。平均より上。
評価:***

 

 

ブライアン・ダニエルソン対ジョン・モクスリー

youtu.be

youtu.be


 WWEで共に鎬を削った両雄だが、ブライアン・ダニエルソンとジョン・モクスリーとしての対戦は、2010年9月26日Dragon Gate USA 「Way Of The Ronin 2010」以来丸11年半振り。ジャスティン・ロバーツの首を絞めてWWEをリリースされた後、初めての試合が、Chikaraでのエディ・キングストン戦なら、ラスト2に選ばれたジョン・モクスリーとこうして同じ拳を交わすのは興味深い。ブライアンがAEW移籍を果たした時から、お互いのリストには名を連ねていたはずで、元々『Full Gear 2021』での対戦が決まっていたものの、モクスリーのアルコール依存症治療からの復帰を待ち、万全の状態で遂に決戦。

youtu.be

youtu.be

 試合のテーマは、血と暴力。そのテーマを描く為に選んだのはシュートスタイル要素の強いグラウンドと骨を断つ様な打撃の数々。WWE離脱後にはGCW 「Bloodsport」にも多く参戦し、シュートスタイルを磨いて来たモクスリーと、デビュー時からそのベースを持った上で、スターにのし上がったブライアン。ただ長く技術をひけらかす様なものにはせず、細かく展開を切って、中盤からは相手を削る為の打撃と関節技を使うことで、スリル感を損なわない。

 このスタイルの試合は、どうしてもインディ要素の強いテイストにならざるを得ないが、この2人のスターパワーにより、スケールダウンしないのが、この試合を押し上げた大きな要素。中盤以降は、プロモ通りに流血姿に。エルボー相打ちによるバッティングで流血と、コンバットスポーツらしさを再現したが、CMパンクの大流血の後では少し効果は低くなる。流血は強大なパワーをもたらすことはなかったが、一定の雰囲気作りには役立っている。只、この試合に関しては、流血がなくても、肉弾戦で十分激しさを生み出している。一応玄人好みになりすぎない様に、ブサイク・ニーといった必殺技も入れて調整は行っている。

 モクスリーは、パラダイムシフトは使わず、スリーパーやブルドッグチョークに拘り、ブライアンは、胴締めドラゴンスリーパーを多く使用。これはモクスリーがCZWのスターで、CZW繋がりで、WWE時代に見出そうとした元CZW世界王者のドリュー・グラックの必殺技である「グー・ロック」でもあるのだが、それは考えすぎだろうか。

youtu.be

 関節技を決めながらのエルボーやナックルと、エグさを最後まで通した後は、誰も傷つかない美しいフィニッシュで幕。呆気に取られる形も綺麗に決まらないコンパットスポーツを意識したものだろう。互いに互いでやりたい事をやり切った上で、メジャーのスケールを保った激闘である。しかし、試合単体では文句なしに好勝負レベル。

 名勝負となった要因は、試合後の大サプライズとなったウィリアム・リーガル登場での猪木さながらスキット。NXTの象徴、HHHの右腕がライバルAEWに登場し、歪み合う昔からの教え子を結びつけるとは驚き。古くからの師弟関係にあるブライアンと絡むのは確定だったが、FCWからの関係であるモクスリーと絡むとは想定外。狂犬、米龍、豪傑のトリオはまさに世界最恐でしょう。名勝負。
評価:****1/2

youtu.be

youtu.be

youtu.be

 

 

 

トルネード・トリオス・タッグマッチ
ダービー・アリン、スティング&サミー・ゲバラ対AHFO(アンドラーデ・エル・イドロ、マット・ハーディ&アイゼイア・キャシディ)(w/ホセ・ザ・アシスタント)

 多人数ハードコアブロウル。メインに向けた箸休めにしては余りにも豪華過ぎる。場外戦あり凶器攻撃ありハイフライングありと全部乗せのファンマッチ。

 高所モニュメントからのスパニッシュフライテーブル葬に加え、入場口の上から積み上げられたテーブルに飛んだのは、御年62歳もうすぐ63歳のスティング!アリン、サミーとスーサイドな2人を擁しながらも、自らが飛ぶ千両役者っぷり。次回以降の高所ダイブスポットは契約間近のジェフ・ハーディによるものになるギリギリのタイミングで、やってのけたのは流石千両役者。

 ジェフ加入への種蒔きはなかったが、メイン前の箸休めを遥かに超える内容で、メインに向けてもう一度ギアを入れ直す事に成功。まあまあ良い試合。
評価:***1/2


AEW世界王座戦
“ハングマン”アダム・ペイジ(c)対アダム・コール

youtu.be


 プレショーから数えて4時間半の長丁場を経て、疲れ切った観客が「Let's Go Adam!」チャントで遊び出すスタートで先行きは怪しかったが、ブライアンやケニーらとの試練の対決を経て団体の看板に成長したペイジと、NXTでトップを張り続け、間を空けること、スローな展開を恐れなくなったコール、大会場でメインを張る事にも慣れ、インディ上がりの良い要素は残しつつ、メジャー団体の堂々とした試合運びが際立つ一戦。

 ペイジがインパクト強めの技セットを持っている事で、コールの持ち味であるのらりくらりと技を喰らいながらも、カウンター技で逆転し、終盤以降はスーパーキックを軸に得意技で押していく戦法が嵌っていく。

 元々Bullet Clubのステーブルメイトであり、タッグパートナーでもあるものの、過去の関係性に頼らずに、新たなライバル関係を築く事が出来ている。コールが優勢となり、オライリーとフィッシュが介入し、チープショットも増えてきて、NXTテイクオーバー感が強く出る中で、それに飲み込まれずにペイジが団体の顔として強く在り続けている事が、この試合を素晴らしいものにした要因である。A

 EWで覚醒したペイジが、NXTで進化したコールを打ち破る事も、水曜日戦争に蹴りを付ける事を印象付ける。終盤も、各種得意技、エプロンでの攻防、介入、リングサイドのテーブル破壊にニアフォール満載と、試合後に握手(Code of Honor)を行ったことよりも全盛期ROHらしさも漂う重厚な内容となっており、「Let's Go Adam!」と遊んでいた観客が、終盤には「Let's Go Hangman!」「Adam Cole!」と熱戦に応えるチャントに移っていたのは、この好勝負を物語る美しい光景。

 この大ボリュームの大会のメインを飾るのは、相当に難しいけれども、2人の持ち味が存分に表れた、盤石の好勝負でした。文句無しに好勝負。
評価:****1/4

 

 

総評:濃密過ぎる大会。名勝負好勝負にサプライズ連発で、大会が長すぎることや女子の扱いが勿体ない位の些細なかすり傷しかない程の素晴らしい大会。年間ベスト大会最有力候補。AEWが越えるべきハードルは、もはやAEW自身しかないレベル。

 エディ・キングストンから始まり、ブライアン・ダニエルソン、”ハングマン”アダム・ペイジとアダム・コール、裏テーマとなった試合後の握手(Code of Honor)やCMパンクのROH時代のセルフオマージュ、大会後のメディアスクラムで語られた、先日トニー・カーンが買収したROHを思わせる演出が多数織り込まれた大会。

 AEWとROHとのミックス、元WWE達をどう限られたスポットで運用していくかが、嬉しい悩み。とはいえまだまだAEWの快進撃は留まる事を知らない。後1か月後にレッスルマニアだが、この後に行うレッスルマニアは大変。もう評価など気にしないモードで突き進むWWEだが、ストーンコールド対ケビン・オーウェンス位は実現してくれないと、この大会のインパクトは、払拭は出来ない。

youtu.be

youtu.be

 

 

全体評価:10+