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PWF Colby Corino's 25th Anniversary Show Review "親子対決&スティーヴ引退試合" コルビー・コリーノ対スティーヴ・コリーノ

PWF(Premier Wrestling Federation) Colby Corino's 25th Anniversary Show 8/27/2021

iwtv.live

 

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PWF クリスタル・コーラル・オーシャニック王座戦
コルビー・コリーノ(c)対スティーヴ・コリーノ

 ハーディ兄弟からテイカー、ワイアットなどコロナ禍が進むにつれて、シネマティックマッチの需要が高まり、米メジャー団体はほぼ行った程であるが、この試合は、レスリングマッチでありながら、どの試合よりもシネマティックマッチ。ロードムービーさながらの深みが詰まっている。
 ROHに登場させ、その頃はROHと関係が深かった新日本の道場にヤングライオンとして入団させようとし、その後WWEにも登場させて、何とかツテを使ってメジャー入りを狙わせたが、ヤングライオン入りは、コルビーの薬物中毒による逮捕で破談、その後もことごとくチャンスを活かせないコルビー。(スティーヴはスティーヴで、2度の離婚など、(コルビーは1人目の妻の時の子供)彼は彼なりに問題を抱えていたかもしれない)。崖っぷちのコルビーだが、鍛錬を続け、ロブ・キルジョイ、ランス・ルードとのThe Ugly Duckingでの活躍やまさかのデスマッチシーンでの台頭を経て、今ではNWAにも参戦。

 

 更に、スティーヴの立ち上げた団体PWF(スティーヴのWWEパフォーマンスセンターでのコーチ就任により、団体所有権は、ジェイコブ・ハマーメイヤーに移る格好)で王者に君臨するコルビー。そして自身の25歳の誕生日、王座戦の相手に父スティーヴを指名。嫌がるスティーヴだが、遂に覚悟を決め承諾。約5年ぶりの復帰戦(現役最後の試合は、ROHでのコーディ・ローズ戦、ダスティはECW時代からの抗争相手であり、スティーヴの存在をメインストリームに押し上げた恩人である。)であり、引退試合としてリングに上がるという壮大な物語である。

 逞しくなったコルビーに対し、スティーヴもシェイプされた体型は、中期〜晩年の現役の時よりも良いコンディションである。

 試合は、じっくりとしたグラウンドの攻防からスタート。スティーヴの熟練のテクニックにコルビーも食らい付いていく。すると打撃合戦など徐々に動きを交えていきながら、加速しかかる所になると、あえてグラウンドに持ち込み切っていく。意地の張り合いで感情に訴えながら、技術で制するところは、勢いに乗っても上手くはいかない、まさに人生の縮図を表している。

 ブランクがあるとはいえ、キャリアの差は圧倒的。スティーヴが捻じ伏せる流れとなっても、コルビーも上手く逃れながら、スティーヴにはない機動力を使い、時には「こんなもんか、親父」とばかりに挑発するのも良い。

 小橋健太ばりの逆水平に田中将斗ばりのエルボーストライク、スティーヴが今までにないハードヒッティングを見せたのもこの試合を特別にした。その一方で、息子にナックルは出来ないと、ナックルは出来ずに押さえ込みに行く。一方でコルビーは躊躇なく顔面を殴りに行く。リアルな関係性までも投影していく。映画の様な試合背景を、プロレスリングの攻防で更に昇華させる見事なストーリーテリング。

 そして終盤は、互いに猛攻をしかけ、何とか耐え凌ぐ消耗戦に。大谷晋二郎ばりのフェイスウォッシュは、逆にコルビーが打ち込んだと思えば、橋本真也ばりのDDTに、(レインメーカー式だったが)リキラリアットに、必殺のスウィンギング・ネックブリーカーとスティーヴの必殺フルコースを叩き込むも、コルビーは何とか耐えた後、決死の思いで逆転。重厚な終盤からクライマックスは、親子対決を締め括るに相応しい大ボリューム。ただ技を打ち込むだけではなく、成長を遂げた息子コルビーの前に、老いたスティーヴが力強さと共に哀愁を見せるのも絶妙。

 大熱戦の末にコルビーが父親超えを果たし、試合後に抱き合う感動のシーンまで、プロレスリングで観客もいたが、まるで2人だけの空間を見ている様な錯覚を覚える程、内省的な内容ではある。しかし、この試合は、プロレスリングとしてのアクションの質が非常に高く、極上のストーリーテリングを持つ大激戦として引き上げられた試合。WWEやAEWでやっても良い程の歴史はあるけども、このローカルインディでしか出来ない所が、良くも悪くもコリーノ親子らしい。とはいえ、2人が歩んできた紆余曲折の道筋があったからこそ生まれたこの試合である。
 単品でも非常にエモーショナルな素晴らしい試合ではあるが、彼らのプロレスキャリアを振り返ってから、この試合を観るとこの試合への印象が格段に上がる。ECWやROHファン、ゼロワンファンでスティーヴの姿を見てきた方は、是非スティーヴの最後の勇姿を、是非焼き付けて欲しい。これぞ「King of Old School」。今年屈指のドラマティックな名勝負です。
評価:****1/2

全体評価:7.5+