世界のプロレス探検隊

WWEAEW新日本インディ他、国内外問わずプロレスのマッチレビューを行っています。

AEW All Out 2024 Review スワーブ・ストリックランド対"ハングマン"アダム・ペイジ/ウィル・オスプレイ対PAC他

AEW All Out 2024 9/7/2024

 

www.trillertv.com

 

MJF対ダニエル・ガルシア

 

 復讐に燃えるガルシアが急襲し、試合はスタート。果敢に攻めるもMJFに負わされた負傷の影響を抱えながらではあるので、首攻めには苦しむ。オスプレイ戦で負ったダメージがあるMJFだが、的確にガルシアを追い込んでいく。
 流血させられた上に首のダメージを表現し、MJFへの復讐とアップセットを狙うガルシア。ガルシアをオーバーさせていく強い意図を感じる試合内容。MJFという間違いがないヴィランのサポート得ながら、ガルシアもフェイスとして支持を引き出しながら持ち前のハードヒットで応戦。

 サブミッションを多用することで、盛り上がりは生みながらも、他の試合、他の流血戦との差別化も図れている。ストーリーを正確に反映させた死闘。パイルドライバーと首攻めがキーの試合。重厚感はあるものの、そこまで重々し過ぎないので、この後のラインナップにも響かない。絶妙な匙加減も見事。試合後のシーンも含めてカムバックしたガルシアのプッシュも成功しそうな激戦でした。

 好勝負。
評価:****

 

AEW世界タッグ王座戦
ヤング・バックス(c)(マシュー&ニコラス・ジャクソン)対ブラックプール・コンバット・クラブ(クラウディオ・カスタニョーリ&ウィーラー・ユータ)
 大激戦となったオープニングから少しクールダウン。クールダウンとはいっても確実なタッグワークで熱気は逃さないのがベテランの技。ここでバックスを持って来れる余裕があるのは大会全体としては大きな意味を持つ。

 クラウディオ&ユータも過激さや華麗さよりもテクニックで勝負出来る選手なので問題なし。困ってもクラウディオが怪力と迫力で持っていくことも出来る。とはいえユータも見劣りはしないのでクオリティはずっと維持出来る。

 スタイルチェンジで技数を減らし、のらりくらりとした小悪党スタイルとなったが、正確に要所は締めてくるので、ダレることはない。熱戦の後のアンダーカードとして最適な良試合でした。中々良い試合。
評価:***1/2

 

AEWインターナショナル王座戦
ウィル・オスプレイ(c)対PAC

 


 完璧な演舞からスカイツイスターブレスの応酬というこのカードだからこそのぶっ飛んだ攻防で空気を作り上げる。PACがラフと首攻めで中盤を構築し、終盤へ。既にただのハイフライヤーではないので、完成度で勝負。

 しかし、出し惜しみはすることなく、技を放つ時は、誰よりも美しく、正確に、鋭角に決めていく。ハイフライングの最高地点にいる両者ならではの完璧な攻防の数々。過剰にはならないけども、期待以上のものは見せてくれる。業界最高の表裏両方のハリケーンラナの攻防が記憶に残るが、その中でブルータライザーの使い方が的確。試合のスケールアップに一役買っていた。

 クライマックスの攻撃、受けも全てにおいてハイレベル。高い高い期待を更に超えていく驚愕の名勝負でした。
 文句無しに名勝負。
評価:****3/4

 

シカゴ・ストリート・ファイト
ウィロー・ナイチンゲール対クリス・スタットランダー(w/ストークリー・ハサウェイ)

 

 


 今大会最大のサプライズの一つ。

 オスプレイ対PACの次の試合は、観客が燃え尽きる影響で上手くいかないことが予想されるが、オスプレイ対PACとは全く異なるヴァイオレンス特化スタイルを突き進む事で、その影響を感じさせない形にしたのは正解。元大親友対決。信頼があるからこそ限界突破出来る良い例。

 序盤から実況席破壊にバリケード破壊、場外スワントーン自爆でテーブル貫通と既に1試合分のメガスポット満載。テーブル葬を逃げたウィローも脚が頭に当たるアクシデントも、影響を見せないタフさも素晴らしい。
 更に裏切りシーンをフラッシュバックさせるステージでのクローズラインを皮切りに、ステージでの蛍光灯束攻撃にステージからの高所落下テーブル破壊。それだけで終わっても良いのだが、ダメージを抱えても巨体を誇るウィローを幾度となく投げまくり、スパニッシュ・フライまで披露するスタットランダーの怪物性を披露。

 画鋲を使うシーンもただ投げて終わりではなく、アックスキック自爆からデスバレーを放つ工夫も見事。そしてドッグカラーマッチさながらにチェーンを使った攻撃でこれ以上ないフィニッシュ。
 過激スポット満載、これをやり切ったことがまず素晴らしい。そのスポットが雑多にならず、上手く整理されているのでインパクトも増している。そしてスポットの合間の攻防も、恵まれた体格を持つ両者が迫力満点の攻防を行うので、性差を超越した魅力を放っている。打撃一つを取っても研ぎ澄まされており、この試合にかける覚悟が感じ取れる。

 女子世界、TBS王座戦線に隠れ、割りを食っていたこの抗争だが、改めてこの2人がAEWの女子部門の顔である事を強烈に示した名勝負でした。
評価:****1/2

 

AEWコンチネンタル王座戦-フェイタル・4ウェイマッチ
オカダ・カズチカ(c)対オレンジ・キャシディ対マーク・ブリスコ対KONOSUKE TAKESHITA

 


 オカダ対竹下というドリームカードをちらつかせながら、実力人気を兼ね揃えたベテランのマークとオレンジが試合を円滑に回していく。結果オカダ竹下両者共ヒールなので実質少しだけのマッチアップだったが、可能性を感じさせるには十分。

 試合全体の貢献度としては、オカダと竹下と並んでも見劣りしないマークとオレンジの安定感が非常に高く、4ウェイとしても優秀でした。
 中々良い試合。
評価:***1/2

 

AEW女子世界王座戦
メルセデス・モネ(c)対志田光
 繋ぎのストーリーとなった点、メルセデスへの支持が少ない点、それまでの熱戦続きで燃え尽きてしまった点、これらの影響でどうしても盛り上がりが少なくなってしまった試合。堅実な試合運びで、一つ一つの攻防のレベルも高く、目立って悪い点はないのだが、勢いは生み出されていかない。

 その後の大きなストーリーの移り変わりやメガマッチを考慮すると、変にモネの仲間を増やしたりしなかったのは正解。しかし、モネ強しも示したい、志田の格を守るためにダーティーにしたい、その狭間で迷いが出たか、どっちつかずのフィニッシュだったのは、印象が余り良くなかった。
 平均的良試合。
評価:***1/4

 

AEW世界王座戦
ブライアン・ダニエルソン(c)対ジャック・ペリー

 


 ブライアンは、ALL INに続き、Final Countdownで登場。
ペリーは上手く逃げながら試合を組み立てる形だが、ブライアンはそんなペリーをいと簡単に追い詰めるが、古傷&ダメージの蓄積を抱える首を攻撃することで主導権を握るペリー。
 流石に格の違いはあるものの、ペリーも求められる仕事は全て遂行しており、大きな勢いを生み出したとまではいかないまでも、王座戦のクオリティには到達している。レフェリー失神、バックス介入によるあわや王者交代という保険もあり、外さない様な仕組みにもなっている。

 後はブライアンが熟練の試合運びで形にしてしまうので問題なし。CMパンク×シカゴ×ペリーという方程式の魔法はもう消えかかっており、このカードを、ペリーを世界王座に挑戦させるのは今しかない中、堅実な試合運びとサポートで王座戦の格を保ちました。

 中々良い試合。
評価:***1/2

 

 

 試合後、いつでもどこでも挑戦権を持つクリスチャンとペイトリアーキーが登場するも、モクスリーとBCC&PACが登場。しかしクラウディオがブライアンを攻撃し、モクスリーもブライアンを窒息させて病院送りに。まさかのモクスリー、クラウディオ、PAC&マリーナ・シャフィールの新ユニット結成か。

 

アンサクションド・ライツ・アウト・スティール・ケージマッチ
“ハングマン”アダム・ペイジ対スワーブ・ストリックランド(w/プリンス・ナナ)

youtu.be

CZW Tournament of Death: Jon Moxley vs. Thumbtack Jack (CZWstudios.com) - YouTube


 非公式ライツアウト戦となり、ベルトも戦績も懸かっておらず、完全にパーソナルな争いに。狂った表情でステープラーを打ち合うシーン、シンダーブロックへの痛烈な投げや豪快なテーブル葬とこれまでの総決算的内容となり、最終決戦に相応しく、甚振るターンを長く取るなど、重厚感もプラス。

 それだと単なるデスマッチだが、金網という環境も上手く活用。逃げ場を無くすシチュエーション、相手を痛め付ける武器として効果的に使用する事で金網である意味も印象付けているのも実に見事。名プロモとなったスワーブが買い取った子供時代に住んでいた家への放火に紐付けて、火炎スポットがあるかと期待したが、更にそれを上回る”サムタック・ジャックさながらの”注射器攻撃から、ボールズ・マホーニーやマイク・オーサム、今ではマシュー・ジャスティスが行う様な強烈な頭部への椅子攻撃で幕という強烈なフィニッシュ。

 憎悪は復讐を生み、復讐は復讐を生み続ける。そして復讐の果ては暴力しか残らず、虚無となる。その復讐が生んだ暴虐を後悔するかの様な表情を見せるも、切り替えて狂乱の表情に戻したハングマンのキャラクターメイクは凄まじい。

 スッキリしない結末にすることで現代世界を表すメタファーにする意図があったかは不明だが、HBO作品の様にダークでモヤモヤとする内容と結末にしたのは非常に興味深い。これこそWWEやその他の団体では出来ない、AEWだからこそ出来る物語であり試合である。スワーブの成り上がりストーリーであり、ハングマンの変貌と救済ストーリーでもある。

 もうこの2人を見れば、片方を見てももう片方の顔が思い浮かぶ。注射器の様に中毒性に溢れている。非常に考え尽くされたストーリーと圧倒的なヴァイオレンス。プロレス史に残る名抗争、死ぬまで永遠に続くと思わせる恐ろしさが堪らない。
 文句無しに名勝負。
評価:****3/4

 

全体評価:10+