世界のプロレス探検隊

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WWE WrestleMania 39 – Saturday Review ウーソズ対サミ・ゼイン&ケビン・オーウェンス/シャーロット対リプリー他

WWE WrestleMania 39 – Saturday 4/1/2023

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WWE US王座戦
オースチン・セオリー(c)対ジョン・シナ
 特別出演となるジョン・シナ。受け身は取れる様に調整してきたものの、能動的に動かしていこうという意思はなく、与えられた仕事をこなし、構築はセオリーにお任せというゲストマッチ。

 ドラマに映画とひっぱりだこのハリウッドのスーパースターとなったシナが未だにプロレスをやってくれるだけで有り難く、セオリーのプッシュにも力を貸してくれるのも団体にとっては二重で有難い。

 ゲストマッチ仕様のスローでオーソドックスな試合展開からレフェリー失神を絡めてダーティーにフィニッシュ。これはこのカードを組むことに意味があり、秒殺やDQではないのは、特にシナのレスラーとしてのプライドがそうさせたのでしょう。セオリーのプッシュに箔をつける事が出来る。ジョン・シナとWWEの関係性の深さを物語る試合でした。

 平均より上。
評価:***

 

フェイタル・4ウェイマッチ
リコシェ&ブラウン・ストローマン対ストリート・プロフェッツ(モンテズ・フォード&アンジェロ・ドーキンス)対ヴァイキング・レイダーズ(エリック&アイヴァ―)(w/ヴァルハラ)対アルファ・アカデミー(チャド・ゲイブル&オーティス)
 スポットフェスト。だが一流のハイフライヤー、パワーハウス、シューターが集い、本気を出せば、他を寄せ付けない極上のスポットフェストとなる。

 VRのドミネイトを皮切りにタワー・オブ・ドゥームスポット、ゲイブルがストローマンを投げるシーン、連鎖ハイフライングスポットとこれでもかとハイスポットを叩き込む展開は爽快。ある意味これが正統なオープニングともいえる着火剤の役割を果たした一戦。

 中々良い試合。
評価:***1/2

 

セス・”フリーキン”・ローリンズ対ローガン・ポール

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 WrestleMania XIIでのHBKの入場を再現したローガンと、オーケストラの指揮者を携え、エキセントリックなコスチュームを身に纏い登場したセス。入場の演出で試合を組んだ意味を提示してくれる。実力は天下一品だが華に欠けていたセスが、紆余曲折を経てセレブリティマッチを任されるポジションを得たのは感慨深い。ローガンに存在感で負けない今のキャラクターを得たのは、キャリアでもターニングポイントとなったでしょう。オーソリティに没個性フェイス、サイコヒールと色々やった甲斐があったのは頷ける。

 試合としては、令和版最強の素人ローガンの身体能力をフューチャーしつつ、プロレスリングにおける構成は、盤石のセスが担当。中盤まではローガンの持ち味を立てながら、滞りなく試合を進めていくセスの腕と丁寧なライティングが光る。

 終盤以降は、大技も続々と飛び出す一方、エナジードリンクの着ぐるみを纏ったKSIがサプライズ出演。KSIはイギリスのメガYoutuberで、ローガンとはボクシングで戦った経験もある関係の深い間柄。ローガンの助太刀に来たかと思えば、実況席破壊を誤爆し被弾するサプライズも。この2人が揃うだけで価値がある。そこに試合内容も見応えありと言う事がないセレブリティマッチ。

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 ローガン・ポールに対するブーイング一色で終わりそうな所を熱狂に変えた演出力の素晴らしさは、特筆すべきでしょう。好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

 

ダメージ・コントロール(ベイリー、ダコタ・カイ&イヨ・スカイ)対ベッキー・リンチ、トリッシュ・ストラタス&リタ
 トリッシュとリタの往年のムーブを堪能する為の試合ではあるけれど、お祭りにはもってこいのイヨのムーンサルトなど現役組にも適切に活躍の場が振り分けられているのが、今のHHH体制の良い所。

 ベッキーとベイリーもそろそろ次の世代にバトンを渡す役になりつつある寂しさはあるけども、この2人以上に現役の顔役はいないだろう。リタの動きがかなり怪しかったりとネガティブな要素はあるとはいえ、地力とスター性を兼ね揃えたメンバーを配置したことにより、尻上がりに試合内容が良化していたのも良い点。

 お祭りのミッドカードには相応しい内容。平均的良試合。
評価:***1/4

 

レイ・ミステリオ対ドミニク・ミステリオ

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 マノ・ア・マノ。長きに渡る抗争も遂に一騎打ちを迎えた。逮捕された後悪党として覚醒するというストーリーを踏まえたドミニクは、護送車に乗って登場。レイのマスクを被っての登場は、レイがドミニクにマスクを譲って引退するのでは?というダートシートへのアンサーというべきか。警官役のエキストラを、インディマットで警官ギミックとして長らく活動しているダン・バリーが、務めていたのは最高の小ネタでした。

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 対するレイは、ホストの1人であるスヌープ・ドッグと共にローライダーに乗りながら、スヌープとDr.DreによるHiphop史に残るクラシック「Nuthin' But A "G" Thang」~盟友エディ・ゲレロの入場曲「Viva la Raza」〜自身のテーマに乗り登場という超スペシャル版の入場。マスクも同じくHOF入りを果たしたグレート・ムタオマージュと全てが特別。

 

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 試合は、ベーシックなグラウンドにロープワークからスタートするものの、一通り終えた後はエンタメモードにスイッチ。レイがベルトでお仕置きの尻叩きを見舞えば、ドミニクは、客席のレイの妻でありドミニクの母であるアンジーとレイの娘であり、ドミニクの妹であるアリーヤを挑発し、アリーヤが持っていた飲み物をぶちまける非礼も。まさに”Family Affair”の様相を呈する。

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 ドミニクは、レイのライバルであるフベントゥ・ゲレーラの必殺技フービー・ドライバー(みちのくドライバー2)や対レイ用カウンターであるアリ・ウープも見せる演出。そして焦点となるエディ・オマージュに619を巡る攻防などポイントを押さえる。WWE以外ならばルチャ・リブレのマナーに則り、レイのマスクを裂き、どちらかもしくは両方流血となる展開で、ドミニクをカリスマルードに出来たはずだが、WWEでは流石に難しいので、エンタメ路線に振り切った格好。ドミニクもこの大舞台をヒールとして1人で回すにはまだ経験不足。

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 その分、保険の助演陣は豪華で、プリースト&ベイラーに、前日のSDで結成となった新生LWO(Latino World Order)の面々(レガド・デル・ファンタズマ)を盛大に介入させ、とどめは実況席に座っていたバッド・バニー。かなりの制限がある中でやれる事をやり切り、逆にWWEでしか出来ない豪華で統制されたエンタメ要素を織り込んだ試合でした。

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 正直入場の演出で魅了されてしまったので、試合内容の不満はそこまで気にならない。試合に至るまでのストーリーメイキングにプロモも良いものばかりだったのも、この試合を押し上げた要因。単体なら好勝負に届かない良試合レベルだが、入場とストーリーの相乗効果で合わせ技一本。

 次のプエルトリコ開催のバックラッシュへも繋ぐ事が出来たのも見事。そして最後にこの試合を担当したプロデューサーはジェイミー・ノーブル、レイとWCWからWWEまで長くクルーザー戦線で戦ってきた好敵手。フービーのラインを入れる細かさも彼ならやれる演出。彼も確実な仕事ぶりでした。

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 好勝負。
評価:****

 

WWE SmackDown女子王座戦
シャーロット・フレアー(c)対リア・リプリー

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 現世代と新世代の女王対決。メインロスター昇格後は、NXT時代程は活躍出来ていなかったリアだが、JD加入後は、実質のリーダーとしてレスラーとしてもスーパースターとしても進化し、RR制覇という冠を引っ提げ、シャーロットに挑む。

 一応シャーロットがフェイスで、リアがヒールだが、支持はリアの方が受けている為、実質の立ち位置は、ニュートラル。むしろそのニュートラルな立ち位置が、女帝対決の厳かな雰囲気を守ったといえるだろう。

 試合は、フィジカルエリート同士の男子を超える激しい肉弾戦。女子の中でも世界トップの体格と破壊力を持つ両者が、遠慮なく打撃を打ち合い、投げ飛ばし、華麗に舞えば、細かなテクニックなど簡単に凌駕出来てしまう。

 シャーロットの特徴としては、相応の相手だと大爆発するが、格下だと余り跳ねない。良くも悪くも女王らしさが世界一なのだが、今回の進化した完全体のリアならば、シャーロットの120%を受け止め、打ち返してくれる存在。それだけ特別な選手にリアはなったことを改めて証明。

 豪快なアクションを連発すると、要所に放つサブミッション(フィギュア・エイトとナイトメア)も効果抜群。中盤以降は一度も勢いが落ちる事なく上りきり、クライマックスからフィニッシュもこれ以上ない最高の形。セミだからこそ出来た試合ではあるものの、今回のメインでなければメインであるべき歴史に残る激闘でした。名勝負。
評価:****1/2

 

アンディスピューティドWWEタッグ王座戦
ジ・ウーソズ(c)(ジェイ&ジミー・ウーソ)対サミ・ゼイン&ケビン・オーウェンス

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 約1年、長きに渡る長編ドラマも最終局面。遂に合体したサミとKOのスティーネリコ。ウーソズの長期政権を止める最後のピースといっても良いでしょう。サミKOは、ロサンゼルス開催ということで、通常放送でも言及していた通り、彼らがブレイクするきっかけことなった西海岸インディの雄PWGのロゴと元看板選手であり団体オーナーでもある暴虐龍スーパー・ドラゴンの顔を入れたコスチュームで登場。その時点で米インディファンは感涙もの。

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 試合は、サミとジェイのマッチアップから序盤はサミに対する支配ターンを手際良く入れて、KOのクリーンハウスにサミはエプロンへの垂直落下式ブレーンバスターを一閃。更に掟破りのウーソズ・スプラッシュを決めた後は、マイケルコールがエル・ジェネリコに対する言及をしたのも嬉しい演出。

 細かなレスリングや攻防は廃し、8万人のスタジアムで飽きさせずにわかりやすくメインのスケールを保てる様に、得意技や大技の攻防を軸に据え、ウーソズがサミとKOそれぞれを孤立させ、戦闘不能寸前に追い込む展開。サミとジェイのストーリー、サミのシンデレラボーイ要素にかなり助けられたものの、サミとKOに対し、ウーソズの手駒が少なく、ヤングバックスでも中々ない程スーパーキックを打ち続ける形となる。

 特にサミのダメージ表現が秀逸だったので、場は持っていたが、拘りすぎでくどい印象は受けた。最後までスーパーキック押しは続けるので、結果破壊力が少し落ちている様に見えて、勢いが落ちかけていたのは事実。

 しかし、KOを実況席破壊で排除し、サミをドミネイトしていくシーンはいつ終わってもおかしくないシーンが続き、手に汗握る形となる。そこでスプラッシュまで追い込んだのはスリル感を倍増させたので正解。ウーソズ7、サミKO 3という様な絶妙な攻守のバランス配分により、試合のギアは更に急加速し、ドラマチックに。

 レインズ、コーディにソロという助演を使う事も出来たが、使わずに両タッグの力を信じ、最後まで走り切ったのも見事。ウーソズは引き出し全開状態で最強のヴィランを演じ切り、サミKOは特段連携は使わなくても、目に見えない強固な絆を存分に見せつける彼らだからこそ出来るタッグの魅せ方を発揮。

 最後パッケージ・バイルドライバーやBrainbustaaahhhhh!の解禁も少し期待してしまったことによる物足りなさはあるとはいえ、すぐさま歓喜の光景にそんな野暮は打ち消される。WMのメインイベントでは2回目のタッグマッチであり、タッグ王座戦がメインとなるのは初となる前人未到の高みに挑んだ4人。壮絶なプレッシャーのかかる外せない試合を最高の試合にしてくれた確かな実力に天晴。

 

 ゴリラポジションにいたかもしれないビンス・マクマホンに、先程WWEを買収したエンデバーの関係者やUFC代表デイナ・ホワイトにも見せ付けた歴史的な一戦は、歴史に残る名ストーリーの一旦のフィナーレを飾るに相応しい特別な一戦でした。

 2023年ベストモーメント賞の一つには間違いなく挙がる歴代のWMでもトップクラスの名シーン。そして米インディファンにとっては特に感無量の光景でした。この対戦とこの戴冠劇が間に合って、誰にも阻止されずに完走出来て本当に良かった。名勝負。
評価:****1/2

 

全体評価:10+