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木村花メモリアルマッチ「またね。」レビュー / 感動のトリビュート。でも終わりじゃない、やるべきことは残っている。

木村花メモリアルマッチ「またね。」5/23/2021

 

 

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なつぽい、朱里、桃野美桜&朱崇花対DEATH山さん、小波、花月&葉月
 木村花の親友であり盟友朱崇花の登場に、花月組は、結果的に新旧大江戸隊揃い踏みというプレミア感溢れるマッチメイク。試合途中には、ジャングル叫女と小波、DEATH山さんが並んでポーズを決める、一瞬ではあったが久しぶりのTCS揃い踏みという嬉しい演出もあった。

 試合は、現役勢が試合を作り、要所では花月&葉月が見事な動きで魅了。ブランクは当然あるものの、丸一年以上ぶりかつ一夜限りの復帰戦としては、十分過ぎるコンディションとムーブの精度を作り上げてきたのは素晴らしい。ファストペースにテンポ良くムーブを畳み掛けるまさにスターダム印の多人数タッグマッチという内容で見応え有り。中々良い試合。
評価:***1/2

 

花月対朱崇花
 先程の試合で葉月を仕留めた朱崇花だったが、まだまだやり足らないと花月を指名し、サプライズの延長戦へ突入。花月の現役時代においても、交わる事は殆どなかった新鮮なカード。

 一夜限りの現役復帰である花月ではあるが、コンディションはしっかり仕上げてきており、場外ダイブに大江戸コースター、更に木村花の必殺技ハイドレンジアを決めれば、朱崇花も大技ラッシュから最後は(朱崇花自身が木村花との一騎打ちでフォールを奪われた)木村花の初期フィニッシャーの一つである変形フィッシャーマン・バスターであり、朱崇花の最終奥義の一つ、紅花衣でフィニッシュ。全てはこの為の演出と思えば、確かに団体の枠の中では出来ないので、無理もないかとは思ってしまう。これが本当にやりたかったレクイエム。

 花月の現役時代の戦いからすれば、まだまだこんなものではないとは思うが、長期ブランクがある中、ベストのコンディションを整えて現役バリバリの相手とメイン2試合を行い、只行うだけではなく、内容も確実に残した上でやり切ったのは見事。朱崇花の身体能力の高さを活かす試合運びにもなっていて、唸らされた。沢山の思いが詰まった一戦。本当に実現した甲斐がある見事なトリビュートマッチであった。
好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

 

全体評価:7.5+

 

{総評}
まずは、この大会を、コロナ禍、緊急事態宣言下でありながら開催して頂いた関係者・レスラーの方々に敬意を送り、木村花さんには改めて追悼の意を示します。
演者や運営側の様々な想いが乗った見事な大会でした。しかし、個人的には、やはり胸の支えは取れない。世界中でこんなことを思うのは私だけだったとしても、場違い見当違いだったとしても、やはりこれだけは記しておきたい。

 

 朱崇花対花月、葉月の復帰、男女含めた業界内の選手を呼ぶ為に、自主興行での開催となった今大会。木村花さんは、様々な団体に出ていて、繋がりも多いとはいえ、最後の所属団体は存在している。そして亡くなり方は、不慮の事故や病気ではなく、様々な要因があるとはいえ、SNSによる誹謗中傷が引き金の大部分として自殺している。そして裁判まで発展している事件である。単なる事故ではない。ある意味SNSが引き起こした殺人事件といっても良いだろう。確かに過去を掘り返さず、ハッピーで終わるというコンセプトなのは、凄く理解出来るけども、果たして、同日、同じ時間帯に別場所で、その最後の所属団体は、本体の大会を行う必要があったのであろうか。仮にその団体主催大会であっても、木村花さん追悼大会という名のもとに、このメンバーを揃える事は出来たのではないか。そうして欲しかった。


 木村花さんの死は悲劇である。今回の大会の成功で、「またね」と風化させてしまい、同様の悲劇を生み出しては、何の意味もない。写真やイラスト、木村花さんを連想する内容やハッシュタグの利用はあっても、団体のトップやオフィシャルからは、「木村花」というワードは、出てこなかった。テレビやメディアに対しての思いがあってのことだとは思うが、こんな事をしてもビジネスにはならない。何なら団体の主催で大会場での開催、FITE TV以外にもNJPW WORLD等も活用し全世界に配信し、より多くの人に届ける工夫を行えば、ビジネスにもなったはずである。

 ここまでの文章を見れば、ビジネスお金とお前は血も涙もない人間だなと思うかもしれない。ただ、筆者である私がプロレスリングにおいて、最も大切にしている事は、二つある。一つは「芸術性」。もう一つは「魂」である。

 今大会は、数多くかつ様々な「想い」が乗り移っていた大会でした。
でも「個々の魂」は積み重なさなっていても、そこには、本来あるべき「プロレス団体の魂」は存在しなかった。大人の事情はある。全てクリーンな世の中になるはずがない。当然私は文章でお金を稼いでいる訳ではないので、好き勝手言える。当事者の痛み等わかるはずもない。でも人の痛みを理解しようとすることは出来る。

 

 昨年2020年は、木村花さんと同様に、プロレス界では、二人の大切な存在を失った。
 一人は、WWE、AEWで活躍していたブロディ・リー(ルーク・ハーパー)
 そしてもう一人は、5月31日にお亡くなりになったダニー・ハヴォック。
 ブロディの時は、彼の最後の所属団体であるAEWが最大限の配慮を行い、そして死後行われた追悼大会は、オーナーであるトニー・カーンを筆頭に、団体内外レスラー、裏方、レフェリー全てがブロディの為に、悲しみをあえて表現した上で、最高の演出をし、その時だけは商売敵のWWEや世界中の団体、上層部から現場の人間、ファン等問わず、それぞれの追悼の思いを示し、今もなお彼のセリフをオープニングで使う等、彼の魂を刻み続けている。そこに政治はなかった。

ダニーの時も同様に、世界中メジャーインディ関係なく、思いを持つ者は、悲しみに打ちひしがれながらも、それぞれの追悼の思いを示し、大親友であり戦友のマット・トレモントは、自身の団体の大会で、ダニーに対する無念や想いを涙ながらに吐露するシーンが印象的で、新たに新設した王座に彼の名を入れたのも記憶に新しい。

iwtv.live

 

WWEが行なったエディ・ゲレロらにも行なったトリビュートや、日本ならノアが行っている三沢光晴さんのメモリアル大会等手段は沢山ある。

 彼女の生きてきた証、思いを具現化する役目は、最後の所属団体にはあるはずである。人間は、時が経てば、記憶は薄れ、感じていた痛みは弱まっていく。だからこそもう二度と悲劇を起こさない為にも、これからが大切で、まだまだやるべきことがある。

 それが出来る力があるのだから、選手は貸し出しだけ、映像は使わせない、名前は出さないなんて中途半端な形ではなく、彼女の生きた証をきちんと「団体」として記してほしい。何もせず、同じ悲劇を繰り返し、数年後にBBCやDark Side of The Ring等で真実をすっぱ抜かれて、信用を地に落とさない様に行動して欲しい。SNS時代に生きる20代のプロレスファンからの切なる願いである。


「またね」は清算の言葉ではない、始まりの言葉である。