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AEW Revolution 2021 Review Part2 "話題騒然! 電流爆破デスマッチ"ケニー・オメガ対ジョン・モクスリー!

AEW Revolution 2021 3/7/2021

 

 

www.fite.tv

 

ストリート・ファイト
ダービー・アリン&スティング対チーム・タズ(ブライアン・ケイジ&リッキー・スタークス)

 スティングの「It's Show Time!」で終わる煽りVから、スケートボード、漆黒の背景、ストリートアート、Templeいや廃墟の様な建物、それぞれのバックボーンを活かした試合への導入ビデオ、更にスティングのお面を付けたエキストラまで流れ込んでくる演出。スティングが沢山出てくるのはWCW、マンデーナイトロの往年の名演出なので、ここでこれを持ってくるとは感慨深い。アンダーテイカー対スティングをやれなかった悔しさを、かつての宿主TNTを担いだAEWで思う存分晴らすかの様な渾身の作品。

 試合自体はリングでの攻防もそれなりにある程のアクションベースのハードコア。衰えがあろうが、この環境でやっているだけで大勝利なので、問題なし。更に大きなポイントとして、アリン×ケイジ、スティング×スタークスと1番お互いがお互いを光らせる事が出来る組み合わせを保ち、その他の組み合わせは最低限にして、介入者の登場や凶器攻撃に移る。無駄な要素を省いて、短所となりある所を長所で覆い隠す。

 スティングによるスティングの為の試合でありながらも、それぞれの良さも光っていたのが好ポイント。アリンを更なるスターにしようとする流れで、お互いに眩い漆黒の輝きを放ち共鳴しているアリンとスティングの関係性も見事。ボーンヤード・マッチに対するAEWとスティングからの最高のアンサーがこの試合。最先端ではないにしても、切り口の新しさと映像の使い方、キャラクターを引き立てる演出が全て当たり。煽りVと試合前の映像で、既に満足出来るレベルにあったが、試合でも満足出来る内容だったのには脱帽。好勝負。
評価:****

 

AEW世界王座戦-エクスプローディング・バーブドワイヤー・デスマッチ
ケニー・オメガ(c)対ジョン・モクスリー
 

Almost 20 Years Making.

業界の異端児ECWが実現出来なかった全米PPV放送での電流爆破デスマッチ。XPWやCZW、インディーレベルでは実現しても全世界同時視聴が出来るこの時代に電流爆破が、アメリカで蘇るとは夢にも思わなかった。

 その記念すべき選ばれた舞台に立つのは、JAPWから新木場の路上、キッズレスラーとの対決、ドラゴンソルジャーLAWとの対決を経て、東京ドームに登り詰めた、超どインディーから世界的スターへとのし上がった男ケニー・オメガ。

 対するはオハイオ州シンシナティの路上で産声を上げ、ルーツにUWFと大仁田厚があり、フィラデルフィアの当時世界一厳しかった観客を手玉に取り、脳挫傷ブレイン・ダメージに食器と電動ドリルで血祭りに上げられ、ドレイク・ヤンガーやニック・ゲイジ、サムタック・ジャック等並み居るデスマッチファイターと凌ぎを削り、WWEのメインイベントに上り詰めても、蛍光灯で人の頭をかち割りたい衝動に駆られ、暴力と自由を求めた狂犬ジョン・モクスリー。歩んできた道に日本とデスマッチ、電流爆破を実現するのに欠かせない要素を持つスター同士。この2人が選ばれたのは必然である。

 この試合形式、電流爆破といえば、大仁田厚である。誰が何と言うと、晩年はしょっぱい試合しか出来なくなっても、葛西純と蛍光灯から逃げても、オリジネーターとしての存在の偉大さは不変である。試合前後は勿論、CZWやGCW登場時、マット・トレモントの引退試合の際に添えたビデオメッセージに対する反応を見ても、遠く離れたアメリカでは、日本以上に神格化されている存在であり、コロナウィルスが無ければ立会人として呼びたかったのは当然だろう。呼べない分、要素として大仁田の姿を見せたかった。それは往年の大仁田のカリスマぶり、電流爆破という特異な試合に想いを馳せている両人ならば、ジャケットだろうがTシャツだろうが、リスペクトは示していく。それはマナーである。


 確かに爆破の大きさや質は、日本に比べれば弱くアバウトだった。有刺鉄線の巻き付け具合が緩さ一つにとっても、日本で使われているもの程の緻密さはなく、ケニーとモクスリーの試合構築力、表現力によってかなり助けられていた。ノーロープ有刺鉄線と思いきや、ロープに有刺鉄線を巻きつけるカリビアン形式である点、場外のトリプルヘル有刺鉄線爆破ボードの使用は一回のみで、繋ぎの凶器は竹刀やゴミ缶等、『Full Gear 2019』でやった様な、有刺鉄線スパイダーネットにネズミ取りボードといったデスマッチ色を極限に強めた展開ではなく、ハードコアとデスマッチの境目をファジーにし、明確なデスマッチ部分は、有刺鉄線による大流血と爆破の衝撃で象っていた。


 

 そもそも、ケニーとモクスリーというハードコアやデスマッチに精通している業界トップ2人だから簡単に乗りこなしていて、歴史を踏まえつつも、クラシカルにしすぎない、過激度とエンタメ性のバランスを取った上で、良い試合にしているが、他の団体他の選手がやれば、もっと苦しい事になったかもしれない。ECWが行っていてもかなり叩かれたかもしれない。それ程難しいチャレンジではあった。ケニーがいくらでも崩せるヒール王者の立場を崩さずに試合をしていたのもポイント。もっとハードにクリエイティブに出来たかもしれないが、それをするとDDTや新日本のケニー・オメガのままなので、現在進行形のケニー・オメガを見せるために、犠牲を払った所はある。

 

 そして爆破の部分、試合終盤の有刺鉄線爆破ボードの見せ方や、エディ・キングストンの名演技を回収出来なかった試合後の爆破も確かに期待外れだった。それは否定のしようはない。しかし、この2人や裏方陣も含めて、他の団体がクリアに出来ずに諦めてきた、法律やテレビのコード、クリアにしなければいけない問題があり、そもそも映像では擦り切れる程見てきたとはいえ、実際にやるのは初めて。未知との遭遇となる中で、大怪我をさせてしまったら、今後出来なくなるかもしれない。AEWはCZW、GCWやICWではないので、度を超し過ぎたヴァイオレンスは、TV放送に影響が出る恐れもある。そのギリギリのラインを探っていた印象が強い。実際、試合中盤〜後半の有刺鉄線使用や爆破シーンは、見応えがあり、ロープに脚をかけた衝撃で爆発したのも、クライマックスへの布石としては良いシーンだった。

 当たり前だが当然FMWがやっていた会場が吹き飛ぶ様な大爆発をやりたいに決まっていて、やれる様に動いていたに決まっている。あれで満足する訳がない。それは今後あるかもしれない第2回目に期待したい。やらなければ何も始まらない。それをカバーするために今の電流爆破を象徴する爆破バットを用意したのも良いアイデアだった。

 この2人だからこそこの難しい試合形式で好勝負レベルにまとめられた。やる事に意義があり、かなりの話題性とお金を生んだ試合ではあるのだが、これまでこの2人が作り上げてきた試合の数々、ここ最近のAEWの神がかり具合、クリスチャン登場というサプライズが前にあった事、日本では20年以上前に伝説レベルで出来ていて、今も日本のインディレベルで出来る大爆破という事、過去のショボい爆破は当時の超絶マニア位しか覚えていないといったことで、ハードルが余りにも上がりきってしまっていた事が、批判を生んだ要因だろう。でもその批判は今後いくらでも回収出来る。(もう既にインパクトレスリングの次のPPVで、ダブルタイトルマッチを行う事が発表され、嘆きの声はかき消されつつある。)

 
 爆破がショボい、アメリカは法律や技術的に難しいなら、コロナ終息後に日本でやれば良い。ケニーやモクスリーが難しいなら、大仁田と遭遇済でザンディグとの戦いで名を売ったジョーイ・ジャネラや世界最高の大仁田信者であり、デスマッチレジェンド、マット・トレモントを復帰させれば良い。テリーやカクタス、サブゥーにサンドマンも連れて来れば良い。ケニー・オメガとジョン・モクスリーだけではなく、今の裏方陣程クリエイティブ力を持ち、資本のバックアップも持った人間は、確実にリベンジを誓っているだろう。この経験が血となり肉となり金となる。もしかしたら奮起したGCWで、もっと過激な電流爆破をやるかもしれない。それでも面白い。

 

 

 一つ余談だが、トニー・カーンとケニー・オメガが権力を乱用し、暴走したのなら、ジョン・モクスリーははなからこの試合には賛同しなかっただろう。それが嫌でWWEを抜けたのだから。それくらいジョン・モクスリーには信念があると思っている。でなければWWEを辞めて、ここにいない。ジョシュ・バーネットと戦う為にGCWにも出る訳もなく、ジョーイ・ジャネラと闘いたいとも思わないだろう。今、明らかにジョン・モクスリーにもかなりのクリエイティブの自由があるので、そこは個々で演出出来る面とバックステージ全体、チームで演出出来る面はあっただろう。当然日本人の感覚とアメリカ人の感覚は違う。その違いも大きく、結局実際に見てやった事がある選手やスタッフを呼べなかったのは大きかった。でもそれはいくらでも改善出来る。大仁田に頼らない方法もあるだろう。

 確かに爆破のしょぼさだけを見れば失敗試合かもしれないが、歴史の清算をするべくこの試合形式を引っ張ってきたこと、この試合に至るまでのストーリーメイク、大仁田のコメントもあったプロモは素晴らしく、試合全体通しても優秀な有刺鉄線デスマッチであり、そして何よりも観るものをワクワクさせ、血をたぎらせてくれるものを見せてくれた。それだけでも十分成功である。好勝負。
評価:****

 

 

 

全体評価:9.5