世界のプロレス探検隊

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AEW Double Or Nothing 2025 Review "ハングマン"アダム・ペイジ対ウィル・オスプレイ/アナーキー・イン・ジ・アリーナ戦他

AEW Double Or Nothing 2025 5/25/2025

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オーエン・ハート・ファウンデーション ウィメンズ・トーナメント 2025 決勝
メルセデス・モネ対ジェイミー・ヘイター

 


 体格に勝るジェイミーの肉弾戦に苦戦するモネだが、世界最高のテクニックで老獪に自分のペースにしていくも、理屈を打ち破ることが出来るジェイミーの剛腕が火を吹きと、ジェイミーが強引に行けば行くほど、モネの巧さが際立つ。

 エディ・ゲレロを絶対的なアイドルとして尊敬するモネらしく、ギリギリまで追い詰められた末に、一瞬で薄氷の勝利を掠め取るエディ道を示した今試合。長時間となるPPVのオープニング。過激化しようと思えば出来るけども、それはせずにレスリングベース、オーソドックスな攻防で完成度の高い試合内容を生み出す。インパクトは残しつつも大会全体には優しく、WMメインイベンターの妙技全開。

 ジェイミーもモネに負けじと、元王者らしい存在感の強さを誇示。単品で十分メインを張れる好勝負でした。好勝負。
評価:****

 

ストレッチャー・マッチ
マーク・ブリスコ対リコシェ

 


 オスプレイと同じレベルで世界最高の動きを繰り出すものの、ナチュラルさも相まって輝きを増すウザいヒールキャラクターとハゲネタで凄腕に見えないリコシェが面白い存在となっている。トップ戦線も狙える存在である一方、見逃せないキャラクターを持つことでTV番組でも息長く活躍出来るようになっている。WWEではその面を全く見ていなかったので、移籍が嵌った良い例の一つでしょう。

 対するマークは、ジェイの魂を受け継ぎ、シングルレスラーとしての魅力が日に日に増している。気軽に負けさせることが出来るポジションであるが、実力人気も兼ね揃えており、トップティアに持っていくことも出来るベテラン枠として非常に重宝されている。巨大団体において、このマークの壁を破るのは結構難しい。

 ストレッチャー戦というより結果的に救急車戦となっていたこの試合だが、リコシェのハゲネタを弄って盛り上げ、自身は大流血も負いながら、場外テーブルへのダイブなど身体も張っていく。ただでさえヒットメーカーになっている上に、流血、ハードコア戦のマークは間違いない。

 この試合までのセットアップは短く、決してストーリーがヒットしていたわけではない本抗争であり、アナーキー・イン・ジ・アリーナ戦で救急車を使いたいからこの形式になったと考えられるが、後付けの環境下でも全力を尽くし、満点の回答を残す。これがトップレスラーたる所以です。
 好勝負。
評価:****

 

AEWコンチネンタル王座戦
オカダ・カズチカ(c)対”スピードボール”マイク・ベイリー

 


 のらりくらりとヒール王者らしい試合構築を行うオカダと切れ味鋭いベイリー。体格差や実績差はあるものの、ベイリーが過度に虐げられることなく、ベイリーの良さを全て出して、オカダもベイリーの魅力を全て受け止める構成になったことで、オカダの強さ上手さが表れていく。

 AEW以外ではまず実現しないカードだが、異なる世界にいたそれぞれのBest in the world2人だけあり、互いの持ち味を活かし高め合うことが出来る。迎撃ドロップキックなどギアを入れた時のオカダは、やはり特別。AEWが生まれてくれたからこそ観ることが出来たウルトラレアなマッチメイクだが、期待以上の白熱した激闘となりました。
 好勝負。
評価:****

 

AEW女子世界王座戦
“タイムレス”トニー・ストーム(c)(w/ルーサー)対白川未奈

 


 ALL INが控えており、ここでベルトを落とすことはまず考えにくい中で、あえて白川のプレゼンテーションに振り切った内容。それに応えた白川が鋭さを増した打撃の数々や得意の脚攻めを披露。

 ルーサーを使ったトルニージョなど新しい技も増やしており、AEWのトップロスターとして輝く準備は万端。そしてその白川を真っ向から受け止めて、貫禄たっぷりに跳ね返すトニーの絶対王者ぶりも見事。絶対的なベストバウトマシーンメルセデス・モネを擁する中で、モネにばかり話題を持って行かれないこのトニー・ストームもスペシャルな存在、まさにTimelessです。
 好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

 

アナーキー・イン・ジ・アリーナ・マッチ
スワーブ・ストリックランド、ケニー・オメガ、ウィロー・ナイチンゲール&The Opps(サモア・ジョー、柴田勝頼&パワーハウス・ホッブス)(w/プリンス・ナナ)対デスライダーズ(ジョン・モクスリー、クラウディオ・カスタニョーリ、ウィーラー・ユータ&マリーナ・シャフィール)&ヤング・バックス(マシュー&ニコラス・ジャクソン)

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 Let the bodies hit the floor!
 ひたすら楽しい最高のエンターテイニングマッチ。脇を固める武闘派DRとOppsが繋ぎつつ、メインはスワーブ&ケニーのトップフェイスと長寿タッグのバックス。

 スワーブとケニーは要所のみで基本個々に動くものの、それぞれが動くたびに最大限魅了してくれる。そのエネルギーを倍増させるのもバックス。高所ダイブで頭を打ちながらも最後まで走り抜いたニックの気迫は素晴らしく、その上、殆どのスポットに関与し、馬車馬のごとき活躍を見せたバックスは、世界最高タッグたる姿を示し、団体の創始者としての存在感を発揮。

 元エリートの盟友ケニーも主役として縦横無尽に活躍。ケニー×バックスの安心感は比類なし。そしてスワーブのリフトに乗って現れるシーンやステープラー攻撃を打ちまくる、まさにスーパーキックパーティならぬステープラー・パーティはハイライトだらけのこの試合においても屈指のスポットでした。

 そして、同形式初の女子選手としてそれぞれ参戦したウィローとマリーナに関しても、かなりの活躍機会が与えられ、それぞれハードなスポットを攻守に渡り担当。存在感を発揮。女アサシンとしてのマリーナ、人気者パワーハウスウィローも豪快な攻撃を次々と披露。男子からの攻撃も被弾し、過保護にしなかったのも大正解でした。

 悪の総帥キャラクターを過度に演じなくて良かったモクスリーは、執拗なフォーク攻撃などで久しぶりの狂犬らしさを発揮。モクスリーの本来の魅力が垣間見えた時点で、昨今の不調が劣化ではなく団体のためにあえてそうしているというのがわかったのも良し。

 また、同形式恒例の音楽を鳴らしながらのニュージャック式大乱戦、今回は『WWE SummerSlam 2001』やWWECWのテーマでお馴染みDrowning Poolの『Bodies』で大盛り上がり。大会を通して使っていた救急車の仕掛けも良く、オールラストとなったフィニッシュシーンもド派手。結果ゲイブの使い方がいまいちだった位で、それも些細なこと。文句のつけようがない最高のお祭りマッチ。

 しかし、自由で楽しくそしてエクストリームなお祭りの中にも、しっかりと練られた演出が多数存在。WWE程ではないものの、締めるところは締めたところにAEWの団体の成熟を感じることが出来る。AEWにしか出来ないオンリーワンでナンバーワンの作品。年間ベスト級の一戦でした。

 5スターマッチ。
評価:*****

 

オーエン・ハート・ファウンデーション メンズ・トーナメント 2025決勝
“ハングマン”アダム・ペイジ対ウィル・オスプレイ

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 現在、世界最高のプロレスラーは誰かと問われればウィル・オスプレイと答えるでしょう。自他共に世界最高を欲しいままにする究極の存在。ただ、AEWを背負う象徴に相応しいのは誰かと問われればハングマン・アダム・ペイジと答えるでしょう。

 自信にみなぎっているオスプレイに対して、覚悟や悲壮感全てを押し込めた厳しい表情を見せるハングマン。この表情作りだけでストーリー・テリングのセッティングは完了。オスプレイの脅威的な動きと並行して表情作りで試合を作りに行く所に特別性を感じることが出来る。

 ビッグマッチ仕様に少しずつボルテージを上げていく構築だが、序盤の一つ一つの攻防を丁寧に最大限の熱量を込めて行うため、一切停滞感はなく、終盤はどのようになっていくのだろうと期待値が上がり続ける展開。ジュニア時代の得意技であるサスケ・スペシャルやアイドルの1人であるAJスタイルズの得意技トーチャーラック・ボムと繋ぎ技一つとっても意味があるのも恐ろしい。
 中盤の立体的な攻防も一進一退の攻防も完璧。オマージュ合戦もハングマンが放った当人が引退させてしまった堕天使クリストファー・ダニエルズの必殺技エンジェルス・ウィングを放つシーン。その前にダニエルズ永遠のライバルであるAJスタイルズのスタイルズ・クラッシュを放とうとするシーンに入れる圧倒的なセンス。一瞬かつて業界を変えたAJ対ダニエルズがよぎるのも憎い。

 更にはクライマックスで放ったのが、オスプレイが自身の宿敵であり、ハングマンの元パートナーであるケニー・オメガのVトリガーだったのに対し、ハングマンが放ったのは宿敵スワーブのビッグ・プレッシャー(旧JMLドライバー)というのも満点回答。

 実況席スポットが不発に終わったのと、西部劇的バックショット・ラリアットとヒドゥンブレイドの打ち合いスポットがそこまで効果的ではなかったくらいで、他を寄せ付けない完璧な内容。

 ただ、オスプレイであれば、5スターマッチを作るのは容易。それくらいのベストバウトマシーンなのだが、ここまでの特別な試合、記憶に残る試合になったのはやはりハングマンの力によるものが大きい。

 オスプレイほどではないにしろ、非常に高い身体能力を持ち、安定感もある選手。その上、AEWを超えて業界トップのストーリーテラーであるからこそ。3年前のパンク戦からBrawl Out、ヒールターン後の漆黒の時間を乗り越えたハングマンに勝って貰って、モクスリーからベルトを奪い返してほしいという願いが、ハングマンに力を与える。眩い光は強すぎて見えにくいが、暗闇に光る光は美しい。

 完璧超人オスプレイに唯一足りないものをハングマンは持っていた。その力が比類なき作品に昇華させた。あっという間にアナーキー・イン・ジ・アリーナ戦と肩を並べる試合を生み出すとは恐ろしい。5スターマッチだが、5スターであることよりももっと特別な魅力をこの試合は放っていた。
評価:*****

 

全体評価:10+