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AEW Dynamite - Grand Slam Review ケニー・オメガ対ブライアン・ダニエルソン他 ~Here to Goddamn Wrestle~

AEW Dynamite #103 - Grand Slam 9/22/2021

 

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ケニー・オメガ(w/ドン・キャリス)対”アメリカン・ドラゴン”ブライアン・ダニエルソン

 Nexus時代にプロモ中首を絞めてリリースされるきっかけとなったリングアナ・ジャスティン・ロバーツのコールを受けて、アメリカン・ドラゴンがAEWのマットに遂に降臨。タイツ、シューズ共にワインレッドベースで、ROH&インディ期を思い出させるのは憎い演出。

 試合は、ビッグマッチらしくじっくりとした立ち上がり。腕の取り合いや打撃、グラウンドで様子を見ながら、AEWという場、超満員の大会場に集う観客のリアクションを楽しむブライアンとそれに付き合うケニーの構図。ケニーは、ヒール調ではありながらも、全編攻防ベースの新日本時代を彷彿とさせる試合運び。ブライアンもスーパースター同氏の対決ではなく、史上最高のレスラー同士の極上のプロレスリングを望んでおり、それにケニー、裏方勢が応えた試合展開。
 とはいえハードなアスリートプロレスだけではなく、WWEとAEWそれぞれの団体で磨いたスターとしての風格や雰囲気作りは、試合に高級感を纏わせる。インディレスラーでは辿り着けない高みでの戦いは、一つ一つの攻防の価値を上げていく。
 意外だったのは、ブライアンが全編打撃で試合を作っていたこと。オブザーバーのベストテクニカルレスラー賞が、「ブライアン・ダニエルソン賞」と言われる様に、グラウンドやサブミッションで絞り上げていくのかと思いきや、蹴り、チョップ、要所ではローリング・エルボーといった打撃を軸にしていて、WWE時代は一要素に過ぎない部分を、軸として据え、過去にない程の激しさで打ち続ける厳しい面も、新たな始まりを告げる一因となっていた。
 新たな打撃という武器、WWE時代の得意なシークエンスに必殺技、インディ時代の看板武器である、I’ll have till 5~やキャトル・ミューティレーションと過去・現在・未来のブライアン・ダニエルソンを見せており、それを「これから見せ場ですよ」と放つのではなく、自然な流れで最高の場面で放つセンス。普通WWEに在籍したレスラーが、WWE退団後は、他団体での試合にアジャストをする期間が必要なのだが、ケニー・オメガという現代最高のレスラーが相手とはいえ、一切その必要がなく、すんなり溶け込み、最高の内容を作り出せる類まれなる才能と技術。脱帽するしかない。
 場外戦も、史上最高級のVトリガーが決まる等ラフを入れつつ、終盤は得意技の攻防、雪崩式の豪快な攻撃と、垂直落下系はほぼない中でも、絶妙なレベルで大きいインパクトを生み出し続けた。テーブルなし、掟破りなし、介入、レフェリー失神なし。極上のプロレスリングを作り上げる事に拘り続けた30分。

 幕切れは呆気なかったものの、簡単に決着は付けさせられないので、やむなし。ありきたりなスター同士の30分時間切れではなく、世界最高の高次元で、死力を尽くした、歴史に残る一戦。5スター、6スターが飛び出してもおかしくはない内容。只、それを嫌らしく狙いに行ったのではなく、自然と世界最高レベルになっていった気品溢れる試合。まさにBest in the WorldとBest bout Machineの対決に相応しく、何回もずっと見ていられる心地良さが格別。
 ブライアン・ダニエルソンは、プロレスリングをこよなく愛し、誰よりもプロレスリングに愛される、プロレスリングの申し子である事を、かつてのホームROH、WWEの拠点であるニューヨークで改めて証明し、ケニーも、新日本時代が最高だった。AEWに行ってからは、ベストバウト級の代表作がが全然ないよなという的外れな指摘に対し、俺はフェイス/ヒールの内容も、ハードコアもデスマッチも出来るけど、まだまだジャパニーズスタイルの名勝負も難なく作れるぞと言わんばかりの仕事ぶりで、マニアに対する回答を文句の付け様がない形で示した。

 演者、観衆、画面の向こうのファン、団体、裏方、同業者、全てが満足出来たプロレス史に残る激闘でした。文句なしに名勝負。
評価:****3/4

 

マクスウェル・ジェイコブ・フリードマン(w/ウォードロウ)対ブライアン・ピルマンJr.(w/ジュリア・ハート)
 パンクがクールダウンさせたとはいえ、そう簡単には興奮は冷めず、ケニー対ブライアン戦の余韻に頑張りが掻き消されてしまうのがこの試合。
 MJFの客煽りを軸に、クラシカルな内容で何とか立て直そうとするも、流石に限度がという内容。ジュリアを絡め、打つ手は打ったものの、この2人自体、才能豊かとは言え、スタイルがオーソドックスであり、また、自分で試合を作ることに関しては、発展途上な面もあるので、ハズレクジを引かされたとは思うが、これも経験。

 このレベルで纏められるこのキャリアの選手はそういない。平均レベル。
評価:***

 

コーディ・ローズ(w/アーン・アンダーソン&ブランディ・ローズ)対マラカイ・ブラック

 コーディに大ブーイングが降り注ぐ思わぬ展開。
 The Boysのホームランダーオマージュコスチュームということで、(表向きは正義のヒーローだが、裏では極悪非道の悪党)、ヒールだが余りにも格好良過ぎて声援が飛ぶ、まさに「アンチヒーロー」ブラックと対照的なコーディ。トミー・エンド時代にも「アンチヒーロー」を標榜していたブラックと、真の意味でアメリカン・ナイトメアになりつつあるコーディ。共になりたい自分になっているのは興味深い。

 試合内容も綺麗な試合運びではなく、観客の反応を見ながら、試行錯誤していく流れ。ブランディやAAを絡めつつ、必殺技の攻防を織り交ぜるも、壊れた流れは取り戻せずそのまま、ヒールターンの予兆をどんどん見せるコーディに、黒毒霧一閃。
 古典的なヒールが似合わないブラックと、リアリティショーが始まる、もしくはDark of the ringで兄ダスティンの過去の行動が明るみになった影響もあるコーディの路線変更を一気に始めた不思議な内容。勝手に崩れたというより意図的に崩した試合だったが、今後が楽しみになる伏線が散りばめられていた。平均より上。
評価:***

 

スティング&ダービー・アリン対FTR(キャッシュ・ウィーラー&ダックス・ハーウッド)(w/タリー・ブランチャード)

 FTRは、対スティング用NWOオマージュコスチューム。スティングのコンディションの良さが光る中で、この試合はFTR劇場。

 小悪党ヒールタッグが、TVプロレスでレジェンド接待する際に何をすれば良いか、この試合のFTRが全て実演。細部まで考え尽くされた動きの数々。スターコンビを立てつつ、自らの上手さを最大限際立たせる。VKMやニューヨークの上層部は金にならないと切り捨てるだろうが、これぞ金が取れるタッグチームの教本という試合でした。

 平均的良試合。
評価:***1/4

 

AEW世界女子王座戦
Dr.ブリット・ベイカーD.M.D(c)(w/レベル&ジェイミー・ヘイター)対ルビー・ソホ
 メインイベンターとしての経験の差が出た試合。目が肥え切ったニューヨークのプロレスマニア、AEWファンに、存在は認知されていても、試合内容はまだ認知されていないルビー。一方AEWオリジナルのベイカーは全てを認知されていて、実績も内容も残し、支持を受けている選手。

 その差が大きく出て、ケニー対ブライアンから疲れ切っている中、何とか盛り上げようとチャントはあっても、試合内容に対する目は厳しい。ルビーは、トップインディレスラーから元WWE、一軍でもライオット・スクワッドで活躍したとはいえ、WWEではシングルレスラーとしてのスポットはほぼなく、後期は負け役も多く、10分以上の試合ましてやメインはなかったので、インディとは勝手が全然違うとは言え、本来のルビーの実力を出し切る事は出来ていなかった。

 その為、介入を使いながらも、ベイカーが貫禄たっぷりに完勝。相手が元WWEだろうがキャリアに勝る日本人だろうが関係なく、格の違いを生み出せる様になったのは素晴らしい。ベイカーが余りにも突き抜けてしまったので、超レジェンドや4HWクラスでないと止めるのは簡単ではないレベル。強いて言うならロサしかいないだろう。
 平均より上。
評価:***

全体評価:8.5+