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AEW Review 2021 "The WAR GAMES" Blood & Gutsマッチ/志田光対タイ・コンティ

AEW Dynamite #84 - Blood & Guts 5/5/2021

 

www.fite.tv

 

Blood and Guts マッチ
ジ・インナーサークル(クリス・ジェリコ、ジェイク・ヘイガー、サミー・ゲバラ、オルティズ&サンタナ)対ザ・ピナクル(マクスウェル・ジェイコブ・フリードマン、ダックス・ハーウッド、キャッシュ・ウィーラー、ショーン・スピアーズ&ウォードロウ)(w/タリー・ブランチャード)


 

 ダスティ・ローズが作り出したウォー・ゲームスが、遂にダスティの息子であるローズ兄弟の元に。ただ権利の関係で名前を変えざるを得ないのでこの名前。しかし正真正銘オリジナルの系譜を継ぐ物である。当然エリミネーション・チェンバーなるWWEの創造物とは異なるものであり、決着方法もギブアップか降参というオリジナルに忠実。

 
 試合は、インナーサークルとピナクルの軍団抗争決着戦。軍団構成員にそれぞれ満遍なく焦点を当てながら、最後はジェリコ対MJFで締めるという予想通りの展開。そこにWWEには出来ない頭部への椅子攻撃や流血、金網よじ登りといったシーンを取り入れて差別化を図る反面、NWA時代と同じ様にするには、メンバーも乱戦タイプが揃っていなかったり、殴る蹴るだけでは若い層には伝わりにくかったりと微調整を加える。ゲバラの曲芸椅子攻撃やマットを剥いだ板剥き出しリングへのパイルドライバーは現代的なエッセンスである。


 これまでの軍団抗争ストーリーがしっかりと活きていて、インナーサークルのベビーフェイス化も成功した事により、遺恨精算、制裁感を強めた試合になっている。ゲバラの飛び道具としての活躍、TVプロレスでは中々ない程の大流血を見せる一方、初回大会のアーン・アンダーソンばりの躍動を見せたダックス等FTRは、このメンバーでは1番この試合形式に適した試合運び、立ち振る舞いを見せており、まさにエンフォーサーズというべき活躍を見せた。

 

 対するインナーサークルでは、サンタナが獅子奮迅の活躍。元LAXの盟友、またNYの大先輩であるホミサイドオマージュのフォーク攻撃を繰り出し、囚人服も相まって、ナチュラル・ボーン・シナーズ、昨年ICW NHBでも復活したデーモンバージョンのホミサイドの様なキレキレなパフォーマンスであった。

 

 その反面、用心棒役のヘイガーやウォードロウは、消化不良。ウォードロウはまだ意図は見えたが、動けすぎるのと、もう少し上背が欲しくなる。技を乱発する、極端な話木偶の坊が良い。この2人を見ると、やはりブラウン・ストローマンやケインはその筋においては天下一品である。個人的には、NPUでマシュー・ジャスティス相手に物凄いハードコアファイトを見せたエリック・ローワンやインパクトに登場したビッグ・キャス位の破壊力が欲しい。

  ヘイガーは相変わらずいまいち。スピアーズは椅子攻撃以外空気と活躍も明暗分かれる形となり、そして各軍団の大将であるジェリコとMJF。大将なのであえて動かずにピナクルを制裁するボスを演じていたジェリコ。的確ではあるものの、そもそもクリス・ジェリコは、ラフファイトが得意ではないレスラー。92年のウォー・ゲームスのオマージュであるターンバックル攻撃を見せ、役割を上手く演じていたが、限界がある。

 流血はさせているけれども、MJFをオーバーさせようという雰囲気が悪い意味で出過ぎていて、憎しみを感じる事が出来ない。金網を登る時のカメラ目線も、する事自体はTVプロレスなので必要だが、あれだけ溜めを作られると、流石に遺恨精算戦である雰囲気が削がれる。

 演者がクリス・ジェリコなので、金網に登るとウォー・ゲームスよりもヘル・イン・ア・セルに見えてしまうというのも要因。金網上のウォールズ・オブ・ジェリコは、「WWF Judgment Day 2002」のHHH戦を彷彿とさせたが、それはウォー・ゲームスという反WWFのNWAが作り出した試合形式のクライマックスシーンには、余り適してはいないと感じた。

 他のメンバーをほぼ映さずに、ジェリコとMJFばかりにカメラが行っていたのは全く悪くない。これはMJFによるMJFの為の試合と抗争なので、狙い通りである。MJFの流血姿や演技力は全くキャリアや年齢の若さを感じさせないハイクオリティなものだったが、いくらクールヒールを演じていても、ルックスがまだ幼くて、若い成金野郎にしか見えない。そこが当時のフレアーとの差である。

 余談だが、HHHが大成したのは、ルックスチェンジが上手くいったことも大きな要因である。恐らく似合わないと思うけれども、シェイン・ダグラスやスティーヴ・コリーノの様に、ブリーチブロンドにする等挑戦しても良かった。(身体は徐々に出来上がってきているけれども、まだかかりそう。)

 要するに、CZWやAlpha-1等で得た経験を活かし、更に溢れんばかりの才能は発揮したものの、まだクールヒール化は、少し準備不足のまま走ってしまった印象。ただ、それは今どうすることも出来ない問題ではあるので、せめてフィニッシュシーンだけでも、チープショット度を強める、もしくは裏切り等の演出でカバーすべきで、それで金網から突き落とすぞで、他のメンバーが降参して試合決着というのは、悪くはないけれど呆気なさは残る。

 決着後のジェリコの高所落下は、豪快ではあるが、2000年のWCWでマイク・オーサムがクリス・キャニオンを突き落としたのを彷彿とさせたもので、これをミック・フォーリーのセル落下と比較するのは流石に難しいものがある。とはいえ50歳を超えたジェリコがMJFのためにここまでするとは、余程寵愛を受けているのだなとは思う。

 NWAのエッセンスとNXTやインディのエッセンスを取り入れ、その狭間で揺れ動いていた試合。両方の良さと両方の課題を吸収した結果、好勝負に届かない良試合レベルとなった。いくら FTRとオルティズ&サンタナが活躍しても、やはり中心に据えられるタフマッチに強いスターが必要である。MJFの様な選手を中核にするなら、用心棒役はもう少し強くなければいけないし、やはりジョン・モクスリー、エディ・キングストン、ジョーイ・ジャネラらハードコアやデスマッチの師範代は用意したかった。軍団抗争決着の為の試合なので、こうするしかなく、これ以上の伸びしろは、ハードコア度を強める以外なかった。

 そして何といってもダスティン&コーディのローズ兄弟の為にある試合形式なので、次はタフマッチ最強オールスターメンバーによる第2回を期待したい。とはいえ、魂が疼く、血が滾るような期待感と内容を見せてくれた一戦。

 WWEにはヘル・イン・ア・セルもエリミネーション・チェンバーもパンジャビ・プリズンもあるのだから、乱発し過ぎのオリジナルを大事にして、
プロレス業界の未来の為に、WAR GAMESの名前は、ローズ兄弟の元に、返還すべきである。好勝負に届かない良試合。

評価:***3/4

 

全体評価:7.5

 

AEW Dynamite #82 4/21/2021

AEW女子世界王座戦
志田光(c)対タイ・コンティ

 日本時代から今まで、ハードヒッティングやハードコア等タフマッチになればなる程真価を発揮する志田に、柔道黒帯BJJ青帯、バリバリの格闘家としてのバックグラウンドを持つコンティというマッチメイクは、予想通り手が合う。

 志田が、厳しい攻めをする一方で、コンティが活きる試合構築をする事で、コンティの持ち味である打撃と関節技の鋭さが最大限に発揮される。モデルばりの美貌でこのスタイルをするのは、管理プロレスのWWEでは、才能が理解されないのは無理もない。AEWで尚且つ王者が志田の時に才能を開花させる事が出来た、そのタイミングの良さも才能である。

 コンティのG-レイヴァー式コーナー据え付きセントーン、志田の松本浩代ムーブとデスマッチや女子プロレスまで押さえた攻防も良い。志田の新必殺技カタナも、魂のスリーカウントつまりランニング・ニーが余りにも流行り過ぎて、業界的にトレンドになり過ぎたフィニッシュムーブだったので、絶妙な技のチョイスをしているのもセンス良し。

 想像以上の熱戦となり、現時点でのコンティのキャリアベストです。

 好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

 

AEW TNT王座戦
ダービー・アリン(c)(w/スティング)対ジャングル・ボーイ(w/ルチャサウルス)
 

 緩急をつけたレスリングと、ビッグマッチだと印象付ける試合作り。このカードでスタイルを変えずに、軽さのない重厚なメインイベントに仕上げられる成長具合が何よりも感慨深い。このカードも団体の未来を背負う組み合わせ。その期待に応える堂々とした熱い内容に仕上がっている。

 ベビーフェイス対決で時間も15分以内ではあるものの、その分内容全てが研ぎ澄まされており、最後のラストサパーの決まり具合も見事と、ストーリーの繋ぎとは思えない程充実した一戦でした。好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

全体評価:7+