世界のプロレス探検隊

WWEAEW新日本インディ他、国内外問わずプロレスのマッチレビューを行っています。

AEW 女子王座挑戦者決定T レビュー セリーナ対里歩/"古巣帰還&禁断の遭遇"さくらえみ対坂崎ユカ

AEW Women's World Championship Eliminator Tournament: Japan Bracket First Round 2/15/2021
Japan Round 1回戦
さくらえみ対VENY(朱崇花)
 

 かつての自分の団体アイスリボンのホームに、まさか戻るとは夢にも思わなかっただろう。ある意味AEWが開けた「forbidden door」は、ビッグ・ショーの契約ではなく、新日本やインパクト・レスリングとの提携でもなく、さくらえみのアイスリボン道場への帰還ともいえる。アイスの選手はおらず、単なる一会場だと言ってしまえばそれまでだが、それでも業界屈指のアンタッチャブルを簡単に実現してしまうAEWという存在は恐ろしく、やはりプロレス業界におけるゲームチェンジャーである。
 試合は、VENYの身体能力を活かした内容。ここぞとばかり飛びまくるVENY。こういうハイフライング連発は、日本では余り好まれない傾向にあるものの、スポットフェストであっても、まず使われることが大事。特に女子枠でここまで飛べる人はいないので、その場飛びSSP等、紫雷イオを超えるものまで持っているのなら、使わない手はない。さくらが上手くコントロールしているので、とっ散らかった試合にもならない。そしてさくらも負けじと飛び技を見せているのも印象的。普段使わない持ち技までも多く使っていて、特別感がある試合運びを見せていた。さくらの強さとVENYの潜在能力を両方示すことに成功。平均的良試合。
評価:***1/4

 

Japan Round 1回戦
伊藤麻希対水波綾
 伊藤麻希ワールド全開の試合。圧倒的に強いのは水波で、その水波もユーモアセンスを持ち合わせている選手である為簡単に対応しているものの、それでもやはり伊藤麻希の比類なき存在感は格別。これはアレックス・シェリーもダニエル・ガルシアも夢中になってしまうのは無理もない。負けても何をしても価値が下がらない。唯一無二の存在である事を今回も証明していた。

 アクション面も成長しているので、キャラクター以外の見せ場も作れる様になったのも良い。弱すぎるのも使われにくくなるので、強くなればそれで良く、程々に弱くても使い易い。クビドルどころか、プロレス業界においては、世界レベルのスーパーアイドルになる日も近いだろう。平均より上。
評価:***

 

AEW Women's World Championship Eliminator Tournament: United States & Japan Brackets 2/22/2021

Japan Round 準決勝
さくらえみ(w/駿河メイ&水森由菜)対坂崎ユカ
 さくらえみのアイスリボン道場帰還と同時に、鎖国制を敷いている東女が、日本の他の女子プロレス団体の選手と戦うという、閉ざされた扉をこじ開けているのもこのトーナメントの凄い所。そして業界の大ベテランさくらえみが坂崎ユカと戦うという考えられないカードが実現している点も恐ろしい。
 ただ、普段ではあり得ない禁断の遭遇が、そのまま試合の面白さに現れるかというとそれは別問題ではある。何もやっても驚きになり、スリル感が味わえる点は強みだが、互いの良さを出し切れる内容にはならないのは弱みである。互いに実力者同士なので、上手く対応している印象はあったものの、ドライなままで特別なものにはならず。

 駿河や水森を介入させ、さくらが主導権を握り、坂崎が反撃する展開。可能性がある攻防は多かったが、突き放す訳でもなく、歩み寄る訳でもなく、微妙なラインで止まっていた。2人の実力を考えればこんなものではないけれども、フィニッシュのクイック含め色々な遠慮が感じ取れすぎてしまった。平均より上。
評価:***

 

AEW Dynamite #73 2/17/2021
AEW Women's World Title Eliminator Tournament US Bracket 1回戦
セリーナ・ディーブ対里歩
 

 現NWA女子王者セリーナ・ディープの巧さ全開の試合。技を多く使うスタイルではないものの、使う技は正確でインパクトもある。流れる様な攻めで魅了しつつ、脚のダメージ表現も優れていて、ドラゴンスクリュー位で、里歩が脚攻めを特段行っていた訳ではなくとも、この試合に影響を及ぼす負傷であると、誰しもが理解出来る表現力は見事。巧さが独り善がりではなく、試合の面白さ凄さに直結しているのが良い。

 対する里歩も流石ベテランで、この様な最強のセリーナに上手く付いていきながらも、中盤以降は躍動感溢れる攻撃を連発していて、存在感を示していた。この華やかな攻撃の数々は、セリーナには余りない部分なので、里歩である必要性を示した。

 キャリアの長さと絶対的なアイドル性、体格の小ささによる扱いにくさという点で、中々張り合える選手が見つからないというのが、存在の大きさの割に日本の女子プロ界では突き抜けた大スターになり得ていない要因だったけれども、アメリカ中心に海外マット、特にAEWでは多様性を認める動きがある為、里歩という存在を最大限にリスペクトして、スポットを与えている。ナイラ戦は圧倒的体格差によるドラマ性で、飛び道具的だったが、今回セリーナというWWEにも日本マットにも精通している実力者の助けもあり、さくらえみ戦を除けば、日米問わず、ある意味初めてレスラー里歩が適切に扱われての好勝負となった。アメリカンプロレス、TVプロレス的には、里歩は試合を引っ張る立場というよりは、引き出されて輝く立場ではあるが、その引き出す立場の選手が、セリーナという現在絶好調のプロレスリングマスターなので、里歩は本来の実力を遂に発揮し、最高の輝きを放っていた。評判はかなり良く期待していたが、想像を遥かに超える大熱戦。もう女子部門がすぐ発展途上とは言わせない。AEWの女子部門にしか出来ないオンリーワンの試合を作り上げた。傑作です。好勝負。
評価:****