世界のプロレス探検隊

WWEAEW新日本インディ他、国内外問わずプロレスのマッチレビューを行っています。

MCW Homecoming 2021 Review ~Adam Brooks vs Slex: 3 Stages of Hell~

Melbourne City Wrestling(MCW)

Homecoming 2021 2/6/2021

 

vimeo.com

 

※今大会はVimeo MCWのオンデマンドから視聴可能。1,000円以下で観れるので格安です。

 

トリプル・スレットマッチ
リッチー・テイラー対ロイス・チェンバース対エマーン・ザ・キッド
(勝者がBallroom Brawl(MCW版ロイヤル・ランブル)の最終出場順20番手を得る。)

キッドが、初っ端からトペとスプリングボード式の攻撃をミスして、ECWアリーナの客なら「この下手くそ!」と罵声を浴びせそうなスタートから、何とか技の打ち合いに持っていく形。類稀なる身体能力を持つDDTにも参戦していたチェンバースの実力を持て余す展開が続く。世界全体を見渡しても非常に上質なハイフライムーブや小生意気アピールは、やはり神童だと思わせる。ただこの試合では、持て余し過ぎて、クイック・カーター・グレイ風味が強かった。ブレイクしないまま消えてしまったグレイの二の舞にならないように、早く上位の選手と当てて、輸出出来る位トップにしたい。

平均レベル。
評価:***

 

MCWタッグ王者戦
ブラット・パック(c)(ミッチ・ウォーターマン&ニック・バリー)対ザ・ナチュラル・クラシック(スティーヴ&トーム・フィリップ)

MCWでは長寿タッグのBPと、トームの当時の彼女(今は破局?)、現在キャンディス&ガルガーノの子分となっている、インディ・ハートウェルのツテを辿ったか、WWE行きを狙い、トライアウトも受けていたTNCことフィリップ兄弟だが、WWE行きは叶わず、更にCOVID影響もあり、結局古巣に舞い戻る形となった。このフィリップ兄弟、MCWアカデミーを出た後に、ファレ道場でもトレーニングを積み、新日本のオーストラリア大会でも参戦経験有という選手。試合は、TNCがステレオ式場外ダイブで盛大な幕開け。その後も恵体から放たれる身体能力を活かした攻撃中心に構築。攻撃自体は迫力があり、見応えがあるものの、それを活かしきれないのは構築がイマイチな為。BPの片割れが脚を負傷するという要素を織り込む割には、それを活かす様なシーンは、フィニッシュシーン位で、それ以外は普通に試合をする展開。別にフェイスヒールに拘る必要もないけれども、要素を追加するなら、着地はしないと浮ついたままになる。今後ストーリーを築いていくなら良いものの、単体で見るとかなり微妙。
BPは、リバース・ハリケーン・ラナ(ポイズン・ラナ)を放った後に、通常のハリケーン・ラナを連携技とはいえ放つなど、中盤と終盤に使う技の強弱が同じな為、技の良さや派手さの割には、勢い付かないまま終わるのはそれが要因だろう。
持っているものの割に、質が伸びない試合だった。平均レベル。
評価:***

 

MCW世界ヘビー級王座戦-3ステージズ・オブ・ヘル
(1本目:通常形式、2本目:フォールズ・カウント・エニウェアマッチ、3本目:ラダー・マッチ)
アダム・ブルックス(c)対スレックス
 

 

Adam Brooks to make ROH debut against Slex at 18th Anniversary

(※Wrestling Observer 2/18/2020の記事参照)

 

宿命のライバル対決。昨年の1月に対戦した後、スレックスはROHと契約しアメリカに。ベルトを守るアダムもスレックスを追って、ROHと契約し、18周年大会で一騎討ちする予定、カードまで発表されていたものの、COVIDの関係で大会は中止。ROHはTV放送を持つ団体の中でも復活が遅いこともあり、スレックスも母国へ戻らざるを得なくなってしまった。その中で、MCW復活大会で1年越しの再戦がラインナップ。そして雌雄を決する舞台として3ステージズ・オブ・ヘルの形式が選ばれた。

まず1本目は通常形式。動きを確かめる様なシーンはあっても、冒頭の演舞的なシーンから、溜めを作りながら、ギアを入れると極上の攻防の数々は健在。このクラスだと、緩急を自在に使える上、急の凄さは世界最高品質。世界中のどのマットでも拍手喝采を得られる確信を持てる程、どこを切り取っても見事。10分だったが、普通の試合の20分位の密度がある。ムーブだけではなく、2人ともアピール力があるのも強く、両者ベビーフェイスでも、淡白にならないのが素晴らしい。丸め込み合戦を経て、両者必殺級の技を温存した上で、関節技でスレックスが一本。この結末も見事。問題がないまま2本目へ。


2本目はエニウェア戦。スレックスがすぐさま椅子を投入。椅子越しのキックに椅子へのツームストーンで畳みかける。まさか2本連取で終わらないよなと思ってしまうところへの畳み掛けは、意表を突くことが出来、その後スーパープレックスを受けたアダムが、受けた勢いを利用して、場外への道連れ式ブレーンバスターで流れを断ち切るハイセンスぶりも良い。仕切り直し方が他とは違う。
その後ペースを落としながらも、椅子や花道での攻防で激しさを増していく展開。1本目が素晴らし過ぎるので、どうしても見劣りはするものの、スポットの入れ方や内容は間違えていないので、良い状態のまま試合を運べている。そしてテーブルに寝かしたスレックスへ、アダムがラダーからのスワントーンボム。スーサイドな一発でタイに戻し、3本目はラダー・マッチ。


ただでさえラダー・マッチは難しい形式なのに、3本勝負の3本目ならば余計。3本勝負の最後にラダー・マッチが用意されるのは、過去にも例はあったが、エクストリーム・ルールズやラストマン戦の様なそれまでの死闘感と必ずしもリンクする決着の仕方をする形式ではないのが作用する。今回も例に漏れず、必殺技の攻防やラダーの凶器化、テーブル葬に椅子トラップへの投げと激しく手広くやって、クオリティを落とさない様にしているのは素晴らしいけれども、ラダー・マッチの性質上、間延び感が出て、熱が逃げやすくなる。今回はそれまでの2本と同じ位の時間を設定し、ラダー・マッチ感を出す攻防から試合を作る形。それ自体は選ばれたものにしか出来ない高みへの挑戦だが、エンタメ性というサポートがない中でやるのは難しさが出てしまった。激しさを持続させながら、もう少しコンパクトにまとめれば名勝負レベルを維持出来ただろう。しかし、散々好勝負名勝負をやってきた両雄の再戦とあって、景色を変えるには、これ位の冒険はあっても良く、実際にハイレベルな内容を残したのは賞賛に値する。通常形式やハードコアなしの3本勝負の方がより歴史に残る試合になったとは思うが、この試合もオーストラリアマット史の1ページに、確実に語り継がれるものを残してくれた。文句無しに好勝負。
評価:****1/4

全体評価:7.5+